北朝鮮への経済制裁は「抜け穴だらけ」
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月19日 17時40分
結局、ASEAN諸国にとっては本気で北朝鮮を取り締まらなければならない理由は何もない。むしろ北朝鮮は貴重な天然資源を持つ国で、これまでも取引してきた良い経済パートナーだ。核兵器を保有しようが、彼らにとっては関係ないというのが実情だ。
――日本などとは緊張感が違うと。
そうだ。ただ、私は日本も緊張感を持って制裁に対応していたとは思わない。パネル委員会に在籍中、私たちは武器輸出を担っていた北朝鮮最大の海運会社を摘発した。その企業の貨物船が15年3月に荒天から日本の港湾内に避難したが日本政府はこれを取り押さえなかった。どの船も国際法では領海での無害通航権が認められており、その企業の所有船というだけでは取り押さえられなかった、と日本政府から説明された。しかし、そもそも港湾内は領海と異なり、無害通航権は認めなくてよい。安保理の対北制裁はそうした船の「資産凍結」を義務付けている。にもかかわらず、日本には対応する法律がない。
さらに、私は北朝鮮が弾道ミサイルの運搬に使う軍事車両を中国から調達していた証拠を入手したことがある。その輸送に使われた貨物船の輸出目録の写しを日本政府が入手していた事実が判明したので、国連捜査のために資料提供を要請したが「機密情報だから出せない」と断られた。
後で分かったことだが、北朝鮮に影響力を持つ中国を刺激したくないアメリカは、既にこの事件の幕引きを図っていたようだ。軍事車両は計6台が北に輸出されていたが、北に協力した中国企業はいずれも何ら制裁を受けなかった。日本はアメリカに情報を渡したようだが、後はアメリカ任せだった。当時、日米両政府ともに国連捜査にはあまり協力的とは思えなかった。水面下でもみ消された事件はほかにもある。
――日本国内の制裁違反者が取り締まられていないと著書で指摘している。
国内で制裁違反に加担している人物が多数いるのに、取り締まりの法律が不十分で、彼らのほとんどが摘発されていない。これは深刻な問題だ。平壌市内の高級デパートの映像を見ると、日本は対北貿易を禁じているのに日本製品がずらりとそろっている。日本の警察は、シンガポールの仲介人と連携して北に製品を流していた国内の犯行グループを既に把握している。しかし逮捕されたのは4名だけ。しかもうち3名は証拠不十分で不起訴になった。
安保理決議では国連制裁違反に加担した企業・個人とのいかなる取引も禁止している。日本は外為法で対応しているが、外為法では第三国駐在の北朝鮮人やその外国人協力者との取引自体は必ずしも違法ではない。日本国内の輸出者が海外にいる北朝鮮人に製品を輸出した後、それが北朝鮮に再輸出されて、しかもそうなることをあらかじめ認識していたことが、犯罪の構成要件となる。証拠を隠蔽する国際密輸ネットワークに対して日本警察がここまで立証するのはかなり厳しい。しかも警察庁は、密輸容疑者に対する県警などの捜索をなかなか承認しなかったため、迅速に証拠を収集できず、容疑者に証拠隠滅の時間的猶予を与えてしまった可能性がある。過去には対北不正輸出で有罪判決を受けた企業や個人もいたが、執行猶予付きの判決で禁輸措置も半年から1年前後。それを過ぎれば普通に貿易を再開できる。
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