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「スマホの電磁波で癌になる」は本当か

ニューズウィーク日本版 / 2018年10月30日 18時0分

この研究の狙いは、携帯電話の電磁波が実験動物の腫瘍を誘発する可能性を調べること――それによって、無害とされる電磁波と細胞との相互作用を生み出す何らかのメカニズムがあるかどうかを確認することだった。

研究者は、一般的な携帯電話ユーザーよりも長時間、電磁波をラットとマウスに照射することにした。電磁波を10分間浴びせた後、10分間の休憩を取るというプロセスを1日9時間続けたのだ。大半の携帯電話のユーザーが浴びるものよりも高い強度の電磁波も照射してみた。最低レベルでも、携帯電話ユーザーの最大許容量にほぼ相当する体重1キロ当たり1.5ワットだ。

米連邦通信委員会(FCC)が定める携帯電話ユーザーの最大許容量は同1.6ワット。このレベルの電磁波は携帯電話が基地局との接続を確立しようとするときにしか発生しない。「通常の通話時に放出されるエネルギーは、この最大許容量よりずっと小さい」と、NTPの上級研究員ジョン・ブッカーは今年の記者会見で言った。

実験動物への照射量を大幅に引き上げるテストも行った。ラットには体重1キロ当たり6ワットまで、マウスには同10ワットまで上げてみた。さらに実験動物の全身、つまり脳、心臓、肝臓、消化器といった全ての臓器に高レベルの電磁波を照射した。

2年間にわたる照射の影響は顕著だった。最も強い電磁波を浴びた雄には浴びていない対照群と比べて6%も多く心臓に悪性腫瘍ができた(理由は不明だが、雌のラットではこうした差は出なかった)。その上、発症する割合は電磁波が強ければ強いほど高くなった。例えば体重1キロ当たりの照射量が1.5ワットだった場合の腫瘍数が4だったのに対し、6ワットでは11だったのだ。つまり、電磁波が大きな発症要因だったことが推定される。

ブッカーは、この結果をそのまま人間に当てはめることはできないと言う。それでも長時間にわたって強い電磁波を浴びると動物の細胞に何かが起こることが示されたのは確かだ。ブッカーは「電磁波を浴びた場合、人間の健康に何らかのリスクを与える可能性があることを、この研究は立証した」と語った。

電磁波の影響を受けた細胞の種類も懸念材料だ。腫瘍ができたのは神経細胞を囲むシュワン細胞だった。実験で腫瘍が発生したのはラットの心臓のシュワン細胞だけだったが、この細胞は携帯電話の電磁波を浴びやすい頭部などの部位を含め、全身に存在する。





先行する複数の疫学研究では、携帯電話を頻繁に使っているとシュワン細胞に珍しい種類の脳腫瘍が発生する確率が高くなるとの結果が出ている。また、3月にラマツィーニ研究所(イタリア)が学術誌「環境研究」で発表した研究でも、驚くほどNTPの実験と似た結果が出ている。この研究では2448匹のラットに1日に19時間、生まれてから死ぬまで継続して電磁波の照射を行った。すると、最も強い電磁波を浴びた雄のラットで心臓のシュワン細胞に腫瘍が発生する確率が有意に高くなったという。

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