「スマホの電磁波で癌になる」は本当か
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月30日 18時0分
大学や医薬品メーカーなどの専門家から成る委員会はNTPとラマツィーニ研究所の実験結果を検討し、雄のラットについて「発癌的活動のはっきりした証拠」が示されたとの結論を3月に出した。アメリカ癌協会のオーティス・ブローリー医務部長は「大きな変化をもたらす研究だ」と述べている。
NTPの研究は今年初めに中間報告という形で発表され、大きな反響を呼んだ。だがブローリーが本誌に語ったように、「まだ分かっていない重要な点がいくつか残っている」。例えば雌より雄のラットのほうが悪性腫瘍を発症しやすいのはなぜか。全体的に見ると照射を受けたラットのほうが長生きなのはなぜか。何より、もし携帯電話による電磁波が癌を引き起こすとしたら、そのメカニズムは何なのか。
人々を電磁波の害から守るためにどんな規制を設けるべきかはまだ分からないと、ブッカーは言う。携帯電話の電磁波が何らかのメカニズムで癌を引き起こすことは彼も疑っていないが、そのメカニズムを突き止めない限り、携帯電話をどう設計すべきかアドバイスすることは不可能だからだ。来年までに手掛かりを見つけるべく、彼はさらなる研究を続けている。
既に規制強化を行った国も
南カリフォルニア大学(USC)医学大学院のガブリエル・ザダ准教授は、正常だが影響を受けやすい細胞を、携帯電話の電磁波が癌細胞に変えてしまうメカニズムを突き止めるための実験方法を模索している。例えば外からの電磁波を遮断した箱に、作動中のスマートフォンとヒトの脳腫瘍の細胞を入れたガラス瓶を置くといったやり方で、細胞の種類別に電磁波の影響を比較検証しようというのだ。
NTPの照射実験の最終結果および新たな安全性に関する勧告はこの秋に出される予定だ。
米政府監査院(GAO)は12年の議会への報告で、携帯電話の使われ方の変化や最新の研究結果、WHOの勧奨などを受けて、携帯電話からの電磁波を浴びる量の基準や、試験を行う際のルールの見直しを求めた。そこでFCCは電磁波の基準見直しの必要性について調査やパブリックコメントの募集を公式に開始。16年までに900件のコメントが集まったというが、現在まで何の対応も取られていない。
現行のアメリカの携帯電話の安全規制は「携帯電話の電磁波の人体への害は細胞組織を熱してしまうことによってのみ起きる」という、今となってはおそらく誤った前提に基づいている。だが米食品医薬品局(FDA)に規制強化の計画はない。NTPの実験結果が公表されたあと、FDAは「現行の安全基準で一般の人々の健康を守るためには十分だと確信している」との声明を出した。
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