トランプを追い込む疑惑のサウジ皇太子
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月13日 15時30分
さすがのトランプ政権も、こうした声を無視はできない。マイク・ポンペオ米国務長官は、カショギ殺害事件の容疑者と特定されたサウジ国籍者21人のビザを剥奪すると発表した。トランプ自身も、殺害の裏に「誰か」がいるとすれば皇太子だろうとの推測をあえて否定はせず、これは「史上最悪の部類に入る隠蔽工作」だとも語っている。
期待の星から危険因子に
それでもトランプはサウジとの親密な関係を維持したい。だから何とかして皇太子を推定無罪で済ませたいようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙に語った「彼を信じたい」という言葉がその証拠だ。
トランプの計算をさらに複雑なものにしているのが、サウジと自らのビジネス上のつながりだろう。サウジでの投資や事業を否定しているトランプだが、大統領になる前の15年には、サウジの顧客から「4000万ドルか5000万ドル」ほど稼がせてもらったと発言している。
10月下旬にCNNの公開討論番組に出演したクシュナーも、事件に関するサウジ側の説明が二転三転していることを問われると、こうかわした。「見掛けでは分からないことがある。中東でもワシントンでもそうだ。今回の件も、偏見を持たずに見なければならない」
そうは言っても、かつてアメリカの期待の星だった皇太子が一転して障害物となりかけている事実は否定できない。イランを孤立させ、パレスチナ和平で「世紀の取引」を実現する、そのためにアラブの盟主たるサウジアラビアを取り込むというトランプの筋書きは破綻寸前だ。
もちろんアメリカは長年にわたり、サウジアラビアを中東における戦略的パートナーと見なしてきた。だからこそサウジの超保守的な宗教がもたらす好ましくない症状(9.11同時多発テロの実行犯の多くがサウジ国籍だったことなど)には目をつぶって同盟関係を維持する一方、武器や石油の取引では大いに稼がせてもらってきた。
もちろんアメリカは他の湾岸諸国とも良好な関係にある。しかし中東問題研究所のトーマス・リップマンに言わせれば、そうした諸国は「経済的にも軍事的にもサウジアラビアにかなわない」し、アメリカの兵器購入や石油市場への影響という点でも比較にならない。ブルッキングズ研究所の中東専門家ブルース・ライデルも「(サウジに代わる)選択肢はない」と言う。
リップマンによれば、アメリカの中東戦略には地域の安定促進、イランとの対決、石油の安定供給、イスラエルの保護、投資機会の創出、テロ組織との戦いといった要素が含まれる。サウジは少なくとも名目上、こうした目標に貢献している。
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