トランプを追い込む疑惑のサウジ皇太子
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月13日 15時30分
だが皇太子のダークな一面が明らかになった今、アメリカ政府も「サウジを頼りにできない同盟国、不利益をもたらす存在と考える可能性がある」と、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院のカミーユ・ペキャスタンは指摘する。
ちなみに「それはサウジアラビアを格下げし、イランへの関与を選んだオバマ政権の立場だった」と彼は言い、こう続けた。「トランプ政権はイランと対決し、サウジを支持する姿勢に戻った。無謀な行動をしないようにサウジを導くこともできたはずなのに」
昨年11月、ムハンマド皇太子は反腐敗運動の一環と称して政府高官や王族数十人を一斉検挙した。この行動は改革者としての皇太子の名声に傷を付けた。そしてカショギ殺害事件でイメージはさらに悪化した。
「今は次々に間違いを犯しながらも国内外の支持を取り付けているが、いつまでも続くとは思えない」とリップマンは言う。皇太子は自分の国際的なイメージを汚しただけではない。彼を持ち上げた人々(例えばクシュナー)の顔にも泥を塗った。
トランプは大統領に就任してから、今もサウジアラビアに大使を送っていない。その代役がクシュナーで、皇太子と同じ30代の彼は親密な関係を築き、それを最大限に利用している。しかしクシュナーが音頭を取った中東和平構想は矛盾だらけのお粗末なもので、完全に行き詰まっている。
不動産屋親子を待つ失敗
クシュナーはかつて、イスラエル人によるパレスチナ自治区への違法な入植に資金を提供する団体の運営に関わっていた。そんな彼に、義父はパレスチナ和平の任を託した。
アメリカとイスラエル、そしてサウジは対イランで同じ目標を共有しているが、サウジにとってパレスチナ問題は譲れない。だから米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するとトランプが決めた時点で、サウジがイスラエルと手を組む可能性は消えた。
トランプ政権はサウジに肩入れし過ぎたのかもしれない。その結果、疑惑の皇太子が支配を続け、アメリカの中東政策を台無しにしても、両国は互いに縁を切れずにいる。
「(カショギ殺害と)似たようなことは今後も起きるだろう」とライデルは言う。「あの皇太子が賢明かつ合理的な指導者になるとは思えない。彼のやり方はかなり見えてきた。今の皇太子は嫌われ者だ。一生、カショギ殺害の影が付きまとうことだろう」。そうであれば、彼が近い将来に訪米することは難しい。
一方でトランプとクシュナーは、世間がカショギ殺しを早く忘れてくれるよう願っている。「さっさとメディアが別な話題に移ること。それが彼らの望みだ」とペキャスタンは言い、こう続けた。「(アメリカにとっての)短期的リスクは皇太子との関係によるイメージ悪化。長期的リスクはサウジの不安定化と、政権の崩壊あるいは反米政権の登場だ。その可能性は低いが、あの皇太子が注目を浴びれば浴びるほどリスクは高まる」
カショギ殺害とムハンマド皇太子が支配するサウジ絡みの醜聞は、最初から失敗すると決まっていた大きな賭けの副産物にすぎないのだろう。トランプとクシュナーはイランを完全に孤立させ、アラブとイスラエルの長年の対立を解決するという夢を抱いてきた。しかしそれは、サウジの協力の有無にかかわらず実現不可能だった。
「どうみても非現実的だ」とリップマンは言う。知識も経験もない2人の不動産屋が、経験豊富な前任者たちにも解決できなかった問題を解決しようというのだ。「無知な人間が手を出せば失敗の確率が高まる」
<本誌2018年11月13日号掲載>
※11月13日号(11月6日売り)は「戦争リスクで読む国際情勢 世界7大火薬庫」特集。サラエボの銃弾、真珠湾のゼロ戦――世界戦争はいつも突然訪れる。「次の震源地」から読む、日本人が知るべき国際情勢の深層とは。
[2018.11.13号掲載]
トム・オコナー
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