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「生産性」の杉田水脈議員に見て欲しい、「普通とは違う」親子の愛の絆

ニューズウィーク日本版 / 2018年11月20日 16時10分

それは独特の難しさがあった。事件後、彼らはアメリカ国内で引っ越しをしていたし、何が起きたのかを公には言っていなかったから。きっかけは、(殺人を犯した)トレバーの父デレクがアンドリューの本を読み、感想を送ってきてくれたこと。私たちがこういう家族を探していると知っていたアンドリューが連絡を取り、映画に出演する気はないかと声をかけてくれた。

彼らは当然、ものすごく躊躇していた。そこでアンドリュー自身がテキサスに飛び、ホテルの部屋で彼らと9時間ほど話をし、企画について説明した。その後、彼らはためらいながらも、ちょっと考えてみると言ってくれた。私もテキサスに行って説得をしたが、出演を決めてくれるまで何カ月もかかったし、撮影を始める前に信頼関係を築き、話を聞けるようになるまでさらに数カ月かかった。本当に何度も何度も話し合ったが、でも最終的にはみんなにとって有意義な結果になったんじゃないかと思う。

同性愛者である原作者のソロモンと父の関係も描かれる (C)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

――低身長症のカップルが、自分の子供もどちらかといえば低身長症がいいと言う場面には少し驚き、同時に自分自身の偏見にも気付かされた。

私もあなたと同じく、自分の偏見にはっとさせられた瞬間があった。言葉を発せず、キーボードを通してコミュニケーションする13歳の自閉症のジャックを撮影しているときのことだった。彼は矯正治療のために歯科医院で椅子に横たわり、口を開いていた。撮影は順調にいっていたが、ジャックは起き上がると、母親に「キーボードをタイプさせて」と合図をした。彼の希望は「撮影を止めて、ここから出て行ってほしい」ということだった。

このとき私には「彼は嫌なことは嫌だと、ちゃんと言えるんだ?!」と驚き、ほっとする気持ちがわいてきた。彼が健常者だったら、そうは思わなかったかもしれない。彼に知性があることは分かっているつもりだったが、それでも私は彼をほかの子供とは違うように見ていた。「彼は不快なことがっても、それを言えないかもしれない」と思っていた自分に気づかされた、重要な瞬間だった。

――日本では最近、LGBT(性的少数者)は子供を作らず「生産性がない」とした、自民党の杉田水脈議員による記事が問題となった。彼女と話ができるとしたら、どんなことを言いたい?

杉田さんに言いたいことはいろいろあるが、まず、女性には子供を産み、家族の面倒を見ること以外の生産性がまったくないと言われていた時代があったということ。あなたも女性の国会議員として、それがいかに限定的でばからしい考え方か分かるはずだと思う。そして、今では本当に多くのゲイのカップルが子供を持ち、育て、素晴らしい親になっている。それに加えて科学の進化により、命の選別といった厳しい決断を下すことができる時代を私たちは生きている。人間に対して、どのように寛容であるべきかが問われている。

生産性という言葉について言えば、それを測るにはいろいろな物差しがある。どのくらい稼げるのか、どれくらい賞を取ったり、資格を取ったりできるのかはその一部。でも生産性は、人間同士の対話に対する貢献度もあると思う。私が思うに、人間の対話やコミュニケーションは多様性によって左右される。いろいろな意見、人種、いろいろなセクシャリティーやアイデンティティーの多様性......そういうところから乖離した生産性という考え方で「人類への貢献度が低い」と言うのは、とても危険な道につながるのではないかと思う。



大橋希(本誌記者)


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