東京五輪を狙う中国サイバー攻撃、驚愕の実態を暴く
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月29日 16時40分
そんな脅威を前に、日本は準備ができているのだろうか。
日本でサイバー対策を取りまとめる役割を担うのは、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)だ。各省庁から集められた約180人が、官庁や民間の業界団体などにサイバーセキュリティーの指導や助言を行う。
NISCの東京五輪担当者は、「私たちが五輪に向けて恐れているのは、鉄道など重要サービス事業が妨害されて機能しなくなること。また大会そのものの進行や中継が中断するなどすれば、IOC(国際オリンピック委員会)との契約に違反することにもなる。そうした事態が起きたら、日本の評判や信用が台無しになる」と語る。「対策として、企業などの隙を探るために、リスク評価は何度か行ってきており、これからも注視していく」
さらに、内閣官房は東京五輪の防衛体制を強化する目的で経費を42億円計上。これは2018年度の予算額の1.7倍に当たる。また「サイバーセキュリティ対処調整センター」を設置し、重要インフラ事業者のためにリスク分析を行い、サイバーセキュリティー分野で世界的に評価されているイスラエルの企業などとの連携も強めるという。
それなりの対策強化に動いているようだが、日本の不安要素は多い。パソコンを使ったことがないと認めているサイバーセキュリティ担当大臣が、関連法案や対策案をほとんど理解すらできないという事実だけではない(この大臣は五輪担当でもある)。
日本にはダークウェブに仮想エージェントを送り込める情報機関もない。防衛省にはサイバー防衛隊と呼ばれるサイバー部隊が存在するが、任務は防衛省と自衛隊のネットワークを守るだけに限定されている。そもそも日本ではサイバーセキュリティー分野で人材が圧倒的に不足していると言われており、五輪に向けて攻撃が増える事態にどれほど対処できるのかは未知数だ。
対策を超えるハッカーの能力
中国からのサイバー攻撃を最前線で受けてきた台湾から、学べることもある。軍のサイバー部門と協力しながら、対策ソフトなどを多層で導入し、事前通知しない政府機関へのペネトレーションテスト(サイバー攻撃による侵入テスト)を実施するなど対策強化をしてきた。民間のセキュリティー企業やハッカーなどとも協力関係を強めている。情報通信安全局の簡は、「今ではかなりの攻撃を防御できるようになっている」と胸を張る。
もっとも、中国政府系ハッカーたちはそうした対策をも超える力があるとの見方もある。台湾発で日本にも進出しているサイバーセキュリティー企業CyCraft 社の共同設立者であるベンソン・ウーは、「一般的に政府系ハッカーによるサイバー攻撃は、かなりの時間と人、そして予算をかけている。こちらがどれだけ阻止しようとしても、それを上回ってくる」と述べる。
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