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宇宙の95%は負の質量をもつ「暗黒流体」だった?

ニューズウィーク日本版 / 2018年12月20日 16時53分

暗黒流体の理論は、宇宙の膨張率の測定に関わる問題も解決する可能性がある。ハッブル=ルメートルの法則によれば、より遠方にある銀河は、より速く私たちから遠ざかっている。銀河が遠ざかる速度と地球から銀河までの距離の比例定数は「ハッブル定数」と呼ばれるが、観測で導き出されるこの定数は一定ではなく、これが「宇宙論の危機」を招いてきた。しかし暗黒流体を想定すれば、ハッブル定数が時間と共に変化することを説明できる。言い換えれば、奇妙で型破りな暗黒流体の概念は、科学的に十分検討に値するということだ。

宇宙論の生みの親アルバート・アインシュタインも、スティーブン・ホーキングら他の研究者も、負の質量について考察した。実際、アインシュタインは1918年に一般相対性理論を修正して負の質量を導入すべきかもしれないと書いているほどだ。

とはいえ、負の質量を想定した宇宙論が正しいとは限らない。現在謎とされている多くの問題を一気に解決する理論だけに、研究者たちはなおさらこの理論に懐疑的だし、その姿勢は間違っていない。一方で、常識外れの発想がしばしば長年の問題を解決するのもまた事実だ。これまでに積み重ねられてきた理論とデータから、負の質量の導入を本格的に検討すべき時期に来ているとみていい。

南アフリカとオーストラリアでは今、集光面積1平方キロを越える史上最大の電波望遠鏡SKA(スクエア・キロメートル・アレイ)のアンテナ群が次々と設置されている。完成すれば、宇宙の誕生から現在までの銀河の分布を測定できる。私は負の質量を想定した宇宙論の予測と標準的な宇宙論の予測を、SKAの観測データと突き合わせて、どちらが正しいか検証するつもりだ。それにより、負の質量をもつ物質が実在するかどうかが決定的に明らかになるだろう。

いま分かっているのは、この新しい理論が新しい問いの宝庫であること。科学上のあらゆる発見の例に漏れず、この理論もまた冒険の始まりにすぎない。美しく統合された、いや、ひょっとすると奇妙な偏りをもつ宇宙の謎を解く旅はまだ始まったばかりだ。


Jamie Farnes, Research Associate & Astrophysicist based at Oxford's e-Research Centre, University of Oxford

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ジェイミー・ファーンズ(オックスフォード大学e リサーチ・センター研究員、天体物理学者)


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