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中国の「監視社会化」を考える(3)──市民社会とテクノロジー

ニューズウィーク日本版 / 2019年1月11日 19時0分

図2で示されているのは、アルゴリズム的公共性に支えられた道具的合理性ベースのシステムを、市民的公共性に支えられたメタ合理性ベースのシステムによってなんとか制御し、その暴走を防ぐという構図です。これが、これまでの人間中心主義的な近代社会のあり方と、テクノロジーの急速な進歩が生み出す新しい統治のあり方とを何とか調和させることを可能にする、ほぼ唯一の方法だといってもいいかもしれません。

しかし、ここでいくつかの疑問が生じます。このようなメタ合理性を通じた市民的公共性とアルゴリズムとの調和という理想は、吉川さんの言うようなAI技術の進歩と道徳の科学的解明によって「功利主義に追い風が吹いている」状況の下で、どれだけ説得力をもつものなのでしょうか? また、そもそも西欧社会で発展を遂げてきた「市民社会」「市民的公共性」の伝統を持たない新興国、端的には中国のような社会においては、図のようなメタ合理性を通じた道具的合理性──およびそれに支えられた新たな統治システム―を制御するという試みは、なおさらおぼつかないのではないでしょうか?

次回は、この問題意識をもう少し掘り下げてみましょう。(続く)


参考文献
安藤馨(2010)「功利主義と自由―統治と監視の幸福な関係」(北田暁大編『自由への問い4コミュニケーション;自由な情報空間とは何か』岩波書店)
カーネマン、ダニエル(2012)『ファースト&スロー(上、下)―あなたの意思はどのように決まるか?』村井章子訳、早川書房
グリーン、ジョシュア(2015)『モラル・トライブズ―共存の道徳哲学へ(上、下)』竹田円訳、岩波書店
スタノヴィッチ、キース・E(2017)『現代世界における意思決定と合理性』木島泰三訳、太田出版
堀内進之介(2019)「情報技術と規律権力の交差点―中国の「社会信用システム」を紐解く」『SYNODOS』2019年1月1日(https://synodos.jp/international/22353/2)
吉川浩満(2018)『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』河出書房新社
Awad, Edmond , Sohan Dsouza, Richard Kim, Jonathan Schulz, Joseph Henrich, Azim Shariff, Jean-François Bonnefon &  Iyad Rahwan (2018), "The Moral Machine experiment," Nature, Vol.563, pp.59-78.



梶谷懐(神戸大学大学院経済学研究科教授=中国経済論)


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