【EU離脱】一人ぼっちになったイギリスを待つ悪夢
ニューズウィーク日本版 / 2019年1月16日 17時55分
<離脱派のもともとの狙いは、EUを離れてより条件のよい貿易協定を世界各国と結ぶことだった。しかし孤立し人口も6500万人しかいないイギリスは、今やどの国にとっても優先度の低い相手になってしまった>
テリーザ・メイ英首相の失敗は確実になった。1月15日、メイがまとめたブレグジット(EU離脱)協定は英下院議会で432対202の大差で否決された。彼女は険しい顔で、宿敵ジェレミー・コービン労働党党首に対して首を横に振った。だがメイは心のどこかで、コービンが彼女に浴びせた悪口雑言はどれも正しいとわかっていたにちがいない。
230票という大差での否決は政府にとって「破滅的な」敗北であり、イギリス現代政治史において1920年代以来の最悪の結果だ。そして3年近く前に開始したブレグジットという骨の折れる仕事に対する保守党の対応は全体として、コービンの言葉どおり「まったくの無能」のレベルに達していた。
最悪なのは、イギリスにとって今回の騒動は、ブレグジットが引き起こす問題の始まりにすぎないということだ。そしてメイが以前警告したように、北アイルランドとスコットランドが独自の道を歩み、EUと手を組んだりしたら、国が分裂し、存亡の危機に陥る恐れさえある。だがこの危機は、簡単に終わりはしないし、乗り越える確実な方法も見えない。
有利な協定は望めない
そのうえ、イギリスはいつのまにか世界の舞台で独りぼっちになっていた。現状のままであれば(次善の策の用意はない)、3月29日をもってイギリスはEUから離れ、それに伴って加盟時の権利をすべて失う。深刻なのは、無税でアクセスできる5億人規模の貿易圏(EU)を失うことだ。そしてイギリスを救うために、現状より有利な条件の貿易協定を提案してくれる国はない。特に昔なじみの「特別な」同盟国、アメリカにはまったくその気はない。
そもそもブレグジット推進派が最初に描いていた夢のひとつは、EUとのもつれた関係から解き放たれれば、アメリカやその他主要な貿易相手国ともっと有利な貿易協定を結ぶことができるというものだった。だがそんなことはすぐには実現しそうにないし、特にトランプ政権下では無理だ。
「イギリスがアメリカやその他の国と自由貿易協定を結ぶ道筋は、少なくとも今後10年間ははっきりしない」と、ジャーマン・マーシャルファンドの上級顧問マイケル・リーは言う。アメリカ、オーストラリア、インド、その他を問わず、貿易相手となりうるすべての国が、イギリスにはとても受け入れられない開かれた貿易政策を要求している。
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