ブレグジットで孤立を深めるイギリスの悪夢
ニューズウィーク日本版 / 2019年1月25日 16時30分
昨年、トランプはメイのEU離脱案を「EU側に有利な協定」と呼んでメイに不意打ちを食らわせた。その上で、英米間の貿易がより困難になる可能性があると懸念を表明した。「トランプは、どんな取引でもアメリカを最優先することを明らかにした」と、リーは言う。
さらに言えば、孤立したイギリスは、どの国にとっても最優先課題ではない。例えばオーストラリアとニュージーランドは現在、EUとの貿易協議をイギリスとの協議よりも優先して進めていると、リーは指摘する。5億人規模のEU市場は6600万人のイギリス市場より重要なのだ。
アジアも助けてはくれない。インドはより多くのビザの発行を求めているが、EU離脱後のイギリスには無理な要求だ。また米プリンストン大学のハロルド・ジェームズ教授(ヨーロッパ政治経済学)によれば、トランプ政権との関税戦争で四面楚歌に陥っている中国と新たに協定を結ぶことも「現時点では極めて難しい」という。
ブレグジットの先行きがどう転ぶにせよ、EUで、アメリカで、そして世界中でイギリスへの信頼は大きく損なわれたと、アナリストらは言う。EUがメイと交渉を重ねて作り上げた離脱協定案が、離脱後のイギリスの発言権を奪うような内容だったことを考えると、EU本部にはもはやイギリスを引き留める気はないのかもしれない。「ある意味でヨーロッパは既にイギリス抜きでやっていく準備を整えた」と、ジェームズは言う。
EU懐疑派に残した教訓
欧州議会選挙を5月に控えるなか、EU本部は加盟国内の反EU派を勢いづかせたくはない。たとえ英政府がブレグジットの賛否を問う2度目の国民投票に踏み切っても(その可能性がないわけではない)、ヨーロッパの主要国は懐疑的だろう。
「新たな国民投票の効果は、かなり疑わしい」と、ジェームズは言う。「もう一度やったら、またもう一度、さらにもう一度とならないだろうか」
ここで学ぶべき重要な教訓は、EUのような巨大な貿易圏から立ち去るのは極めて難しいということだ。イギリスとヨーロッパ大陸は愛憎入り交じる複雑な関係にあり、要するに結婚と離婚を繰り返したエリザベス・テイラーとリチャード・バートンのようなものだ、とジェームズは冗談めかして言う。
「地理的条件は変えられない。イギリスは対岸のフランスからわずか数十キロしか離れていない」と、ペンシルベニア大学経営大学院のマウロ・ギーエン教授も言う。「過去50年間、イギリスはヨーロッパと近い関係にあった。そしてヨーロッパは世界最大の市場だ」
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