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イギリスが出て行ってもEUの課題はそのまま

ニューズウィーク日本版 / 2019年1月31日 18時0分

EUの統合も進まない

ヨーロッパのブレグジット懸念派は、イギリスがいなくなることによってEUの軍事力が低下し、戦略的思考も乏しくなると言うが、この懸念も大げさだ。確かにイギリスは、フランスと並ぶEUの2大軍事大国であり、ブレグジットによってEUの潜在的軍事力は低下するだろう。

だがイギリスは、いかに象徴的であっても、独立した「EU軍」の設置には一貫して反対してきた。そんなことをすれば、アメリカとヨーロッパの軍事同盟であるNATOの存在意義が低下するというのだ。



近年、アメリカはヨーロッパ防衛の意欲を低下させているから、イギリスがEUに残留すれば、EUへの軍事的貢献を強いられる可能性はある。しかし防衛と安全保障は、イギリスとEUの姿勢が比較的一致する領域の1つであり、ブレグジット後もイギリスがEUとの協力を続けていく可能性はある。

欧州統合派は、イギリスという「邪魔者」がいなくなれば、EUは統合深化に取り組みやすくなるというが、これは滑稽なくらい的外れな考えだ。EUの最高協議機関である欧州理事会での投票記録を見ても、イギリスはほとんどの場合、多数派に同調してきた(ブレグジット投票までの2年間で82%、09~15年は88%、04~09年は97%)

また、EUにとって何よりも最大の問題は、ユーロ圏の足並みの乱れをいかに解決するかだが、そもそもイギリスはユーロに参加していない。ユーロ圏北部の債権国と、主に南ヨーロッパの借金まみれの国々の対立が悪化しているのは、イギリスのせいではない。

ユーロ圏の債務問題がピークに達していた11年12月、イギリスは欧州理事会に提案された政安定化策をEU共通のルール(EU協定)とすることに反対票を投じて批判を浴びた。しかしそれでもこの安定化策は、イギリス抜きの国家間合意として成立した。

また、ユーロ圏にとっては、各国が財政目標を達成するかどうかよりも、ユーロ圏全体でどうやってリスクをプールするか(ユーロ圏共同債の導入など)のほうが重要な問題となっている。この領域では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相のコンビが、なんらかの打開策を導き出せるのではないかと期待されたが、これまで合意された改革は大した成果を生み出していない。

EUの防衛協力に関しては、イギリスが障害になってきたのは間違いないだろう。従ってブレグジットが実現すれば、一定の協力が進むかもしれない。しかしイギリスがいなくなったからといって、EUの軍事力強化を妨げる根本的な問題が解決するわけではない。

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