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「虐待が脳を変えてしまう」脳科学者からの目を背けたくなるメッセージ

ニューズウィーク日本版 / 2019年3月22日 10時35分

こうした脳の変化は、疾患や障害の影響で起きたものではないということだ。にもかかわらず、トラウマの痕跡が脳に刻まれているのである。だとすれば、それが子ども時代の虐待によるものであることは、専門家でなくとも想像できることではないだろうか。

しかし、もしもそうであるなら、虐待を受けた人は、みんな不幸な人生を歩まなければならないのだろうか? この問いに対して著者は、「それはまた別の話」だと主張している。



 幼少時代に十分な愛着を築けないというのは、傾いた脆弱な土台を築いてしまうようなものだ。その上に家を建てるのは大変だ。思春期に小さな地震や嵐に遭遇するたびに、どこかしらの修理に追われることになる。脆弱な土台を持つ人が、硬い土台を持つ人よりも不必要に多くの苦労をしなければならないのは確かだ。 とはいえ、思春期が終わっても小さな工事は続けられる。感受性期後の工事は大々的なものではない。使えるリソースも限られてくる。リソースが限られた中で、一度建ててしまった家の間取りを変更するのは簡単ではない。 それでも、柱の数を増やして崩れにくくすることや、床や壁を新しくして頑丈にすることは可能である。傾いた土台をまっすぐにすることはできなくても、階段に手すりをつけて、家具を配置して...。頑強な土台を持つ人に比べれば、費用も手間もストレスも多くなるかもしれないが、住みやすく、崩れにくい家に作り変えていくことは不可能ではない。(152ページより)

虐待が脳に与える影響の研究は、まだ始まったばかり。だからこそ大切なのは、研究によって明らかになっている結果を踏まえ、どうすれば虐待経験者を救うことができるのかを考えることなのだろう。「先には明るい未来があると信じて研究を続けている」という著者のことばには、大きな期待を寄せたいと思う。


『虐待が脳を変える――脳科学者からのメッセージ』
 友田明美、藤澤玲子 著
 新曜社


[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。


印南敦史(作家、書評家)


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