イスラム恐怖症は過激なステージへ NZモスク襲撃で問われる移民社会と国家の品格
ニューズウィーク日本版 / 2019年3月29日 17時0分
ニュージーランドにとっての唯一の救いとなったのは、事件の実行犯がニュージーランド人ではないこと。彼はオーストラリア人である。
地政学的視点からも、事件を考えていく必要がある。今回の事件と欧米諸国で極右勢力が起こしているヘイトスピーチは、全く関係のないものではない。問題の根は深くつながっている。テロの最大の動機は「周りの環境とその社会に対する不満」だとされる。そしてそれを制するのは、一般の人々の「共感」と「否定」の動向だと私は考える。「共感」は一般に良い意味で用いられるが、過激な思想や言動に「共感」するというネガティブなものもある。また、同じように相手を否定することで自分を肯定する排他的ヘイトスピーチもある。人間の基本的感情の一つである「共感」と「否定」は人をまとめることもあれば、人を分断することもできる。場合によって、「共感」と「否定」は紙一重だと言える。
約100人を死傷させた実行犯は、移民、特にイスラム教徒を拒絶する極右過激主義に特有の用語や画像を多用していた。犯人が共鳴している白人至上主義者や右翼勢力は憎悪に満ちた表現や画像を拡散するなどヘイトスピーチ活動をしながら、過激主義だと非難されないように常に正体を偽っていた。しかし、彼らの憎しみはもはや言葉にとどまらず、ますます極悪非道へと傾いていく新たな段階に突入したようだ。そして、彼らの活動を容認する極右の政治的運動や、世論の理解も進んでいるように思える。
反移民や白人至上主義を掲げる欧米各国の極右勢力は、なぜ移民やイスラム教徒に対して憎悪の念を抱くのだろうか。
近年、アメリカやヨーロッパ、今回の事件が起きたニュージーランドでもイスラム教徒の人口が急速に増え、イスラム教徒の移民は現在およそ5000万人と推定されている。
それに対する不安が反イスラム感情や、移民排斥傾向をもつ極右勢力への支持を増やしている。実際、極右勢力は欧州議会などの選挙で、それまでの限定的な存在から一気に議席を増やして躍進している。
これはフランスやドイツなどに限った話ではなく、スウェーデンやデンマークなど、他のヨーロッパ諸国にも広がっている。
「人権尊重」を理念に掲げてきた欧米社会で「反移民」を掲げる大統領や政党が躍進していることは、欧米における過激思想がいかに拡大しているかを示している。
一方、欧米社会が大切にする多文化共生の理念が健在であることは、ニュージーランド人が証明してくれた。事件を受けて、ニュージーランド政府と国民の取った行動は実に素晴らしかった。彼らが見せた包容力と、人間味に溢れる行動には世界の賞賛が集まった。ある意味で、移民と国家の関係において手本となる新たな歴史を作ったと言っても過言ではない。「国家の品格とは何か」と改めて考えるきっかけになったのではないか。
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