ジョブズとクック、まったく異なる仕事の流儀
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月2日 19時40分
外注先企業の労働問題まで改善する
クックはオペレーションの効果でムダをなくし、在庫回転率を上げ、財務体質を強化した。サプライヤーの現場に張りつき、細かく目を配り、部品サプライヤーの在庫管理にまで口を出して、納期通りに iPhone を出荷してきた。
またアップルはサプライヤーにあれこれ口を出すだけでは終わらず、サプライヤーの労働問題や、環境保護にまで口を出す企業となっている。
毎年発表する「サプライヤ-責任」という報告書は「労働・人権」などの観点から細かく評価を行っている。
強制労働、勤務時間の改ざんなどの違反を遠慮なく告発し、仕事の斡旋業者から多額の手数料が搾取されたことが判明すれば、サプライヤーに命じて斡旋業者から労働者に手数料を払い戻させた。2017年では約1億9000万円相当が従業員の手に戻った。
危機を契機に
このようにサプライヤーでの労働問題や、地球温暖化への対応においてアップルは世界をリードしている。
だが、最初から積極的だったわけではない。それどころかアップルは、当初、知らん顔を決め込んでいた。
アップルがサプライヤー企業での劣悪な労働環境に目を向けたのは、中国での自殺事件と世間の批判からだった。
2009年、鴻海(ホンハイ)精密工業の中国製造子会社フォックスコンで、アップルに送る予定のiPhoneの試作品を、1人の中国人従業員が紛失した。結局、その若者は深夜に飛び降り自殺してしまう。それから14人の従業員が次々と自殺を図るという異常事態が起きた。彼らの年齢は17歳から25歳と若かった。
ついに世界は問題に気づき、鴻海だけでなくアップルにも批判の矛先を向けた。
これをきっかけに、アップルは180度方向転換して、サプライヤーの労働問題改善に積極的に取り組んでいくようになった。クックがCEOになるのと同じ時期だった。
環境問題では、中国に展開する欧米企業のサプライヤーで周辺環境の悪化が進んでいるという報告が中国の環境NPOによってなされたことが契機だった。
この環境NPOが欧米企業29社に環境問題の情報開示を求めた時、回答したのは28社で、アップルだけがこれを拒否した。
「アップルのもう1つの顔」という報告書をこの環境 NPOは発表してアップルを糾弾し、その結果、話し合いのテーブルにやっとアップルが着くようになったのが2011年から2012年のタイミングであった。これもクックがCEOに就任するタイミングだった。
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