習近平訪仏でわかった欧州の対中争奪戦
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月4日 14時15分
中国と一帯一路の協定を結んでいるのは、この東欧10カ国とギリシャ、ポルトガルで、今回イタリアが加わる。
ギリシャやポルトガルは、2010年~2012年の欧州債務危機の時にEUに散々いじめられた。そもそも独仏の危機はギリシャ政府の腐敗もさることながら、独仏の金融機関の責任も大きかった。ギリシャ救済で出された補助金のほとんどは独仏の金融機関に還元された。その上、インフラや企業を買い叩いた。
アメリカも中東欧を暗躍
ベルリンの壁が崩れたあと、東欧やギリシャは、アメリカとEU(とくに独仏)の経済的影響力の争奪戦の場になった。EUが急速に拡大した理由でもある。近年はまたアメリカの手がのびてきている。2015年ポーランドは、バルト海・アドリア海・黒海の「スリーシーズ(三海)イニシアチブ」という中東欧の12のEU加盟国を結集した組織を作った。このうち11カ国は、16 + 1の加盟国で、12番目はオーストリアである。中国の投資への失望が設立の理由だとされていた。
しかし、トランプ大統領が2年前、7月14日のシャンゼリゼでの行進に招かれていたフランスに直接いかず、あえてポーランドを訪問してEUへの就任後初の一歩をしるしたときに、このイニシアチブの裏にはアメリカがいることがはっきりした。
アメリカはEUの解体を狙っているようだが、中国はどうなのだろうか? 新しい世界秩序の中でアメリカやロシアに対抗するためには、むしろEUが一体のままであることを望んでいるようだ。逆説的な話になるが仏独にとっても、中国と友好関係を深めることで、16+1は中国を通して東欧の離脱を抑える道具になる。また中国の影によって独仏支配が緩和され東欧諸国の発言力が増すことは、EUの結束を強化する役割を果たす。
合従連衡、権謀術策、遠交近攻......、欧州の天地には四文字熟語が渦巻いている。
[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。
※4月9日号(4月2日発売)は「日本人が知らない 品格の英語」特集。グロービッシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは? ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)「日本人がよく使うお粗末な表現」、マーク・ピーターセン(ロングセラー『日本人の英語』著者、明治大学名誉教授)「日本人の英語が上手くならない理由」も収録。
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)
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