「心の専門家」に、ピエール瀧氏を「分析」させるメディアの罪
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月19日 15時55分
ゴールドウォーター・ルールをめぐる議論には、様々な立場がある。だが、多くの論客に一貫しているのは、専門家としての責務を果たせるのはいかなる仕方なのかを問うていることだ。また、「精神医学を装った攻撃」には、あくまで厳しい姿勢でいるという点も共通している。
改めて確認すると、ゴールドウォーター・ルールは絶対的な基準であるわけではない。また、APAに属さない人々の振る舞いを制約できるものでもない。しかし重要なのは、自らの専門知をいかに活用すべきか、専門家が信頼に足る存在であるにはどうすればよいのかを、専門家らが真正面から議論をしているという事実である。ルールをめぐる論争そのものが、専門家としての規律的振る舞いをアップデートしようとしているのだ。
そんなアメリカでも、メディア上には問題のあるコメントが溢れている。マスシューティング犯の「犯行動機」のプロファイリングなどの中に、「精神医学を装った攻撃」がしばしば見受けられてしまう。また冒頭で述べたように、トランプ大統領の精神状態の分析をめぐっては、今でも激しい論争が続いている。その論争の一端は、日本でも『ドナルド・トランプの危険な兆候――精神科医たちは敢えて告発する』(バンディー・リー著、村松太郎訳、岩波書店、2018)などの著作物で読むことができる。
ピエール瀧氏の「深層心理」を読み解く?
この論争は対岸の火事だろうか。精神科医であれその他の職であれ、人間の心理についての専門家は、メディアでの無責任な発言に対して慎重であるべきだ。しかし日本に目をやれば、同じような問題が存在していることに気づくだろう。
容疑段階であるにもかかわらず、「犯行動機」をプロファイリングしてみせる心理学者。政敵を批判する際に、病気のメタファーを用いる精神科医。専門知で把握できる範囲を逸脱して、男と女の違いなどをあまりに単純に「説明」してしまう心理学漫画。日本のメディアにも、問題のある発信は溢れている。
さらに一つ、具体例をあげてみよう。
2019年4月5日に放送された日本テレビのワイドショー「ミヤネ屋」では、薬物使用の疑いで逮捕され、その後釈放されたピエール瀧氏――2019年は「ウルトラの瀧」名義で活動――についての特集を放送していた。その際に同番組は、「臨床心理士」のコメントを紹介しながら、わずか2分間の映像を元に、ピエール瀧氏の「深層心理を読み解く」というコーナーを展開した。以下はその詳細である。
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