新元号「令和」で占う、日中関係の行方

ニューズウィーク日本版 / 2019年4月19日 17時0分

<新しい元号は「脱中国化」の証し? それでも日本を必要とする習政権の方針は>

4月30日の天皇明仁の退位と翌5月1日の皇太子徳仁の即位は日本国民にとって歴史的な出来事だ。何しろ、天皇の生前退位は明治以降の日本史上で初めてのことなのだから。

一方で中国国民にとってより関心が高いのは、日本政府が決定した新元号「令和」だ。令和はある重要な点で平成以前の元号と一線を画す。古来の伝統を離れて、中国の古典ではなく、初めて国書『万葉集』を典拠としたのだ。

この伝統破りを受けて、中国メディアはちょっとした騒ぎになった。安倍政権が文化面の「脱中国化」を目指していることを示す選択だとの見方も飛び出したが、それは事実無根だとすぐ証明された。令和の出典である万葉集の記述は、中国・後漢時代の政治家・学者だった張衡(チャン・ハン)の詩に影響を受けたものであると複数の研究者が指摘したからだ。

この騒ぎが、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が意欲を見せる日中関係改善の取り組みに影響する可能性は低いが、問われてしかるべき疑問がある。令和時代の日中関係は、平成に比べて抜本的な改善を実現できるのか。

平成が始まった当時、日中関係がより親密なものになると期待させる強い兆しがあったのは確かだ。とはいえ蜜月期間は長続きしなかった。この20年、両国は領有権問題で対立を繰り返し、露骨な敵対と表面的な平穏状態の間を行ったり来たりした。

来る令和時代は、幸先のよい出だしになりそうだ。昨年10月の安倍晋三首相の訪中への返礼として、習は6月28~29日に大阪で開催されるG20サミットに合わせて日本を訪問する予定。実現すれば、08年以来の中国国家主席の訪日となり、日中友好に新たな弾みがつくとみる向きが強い。

ただし、不安材料もある。5月下旬に予定されるドナルド・トランプ米大統領の訪日だ。トランプは国賓として迎えられることになっているが、これほど短期間に2人を国賓接遇するのは難しいため、習の訪日は実務訪問になる可能性がある。メンツにこだわる中国側がこの「格下げ」に憤れば、安倍が外交面で大きな得点を稼ぐチャンスは限られる。

しかし習の訪日の成否にかかわらず、日中関係改善を図るべき動機は日本より中国のほうが強い。米中関係の戦略的対立が長期化するなか、今や日中の間で、より相手を必要としているのは中国のほうだ。

アメリカが中国を効果的に封じ込めるには、中国への技術移転を制限し、「一帯一路」経済圏構想を牽制し、東アジアで軍事的抑止力を強化するために日本と緊密に協力することが欠かせない。対する中国の視点から見れば、アメリカの封じ込めの動きに日本が積極的に関与する事態を阻止する上で、現実的な戦略はただ1つ。日中関係を大幅に改善することだ。

理屈の上では、説得力のある戦略だ。とはいえ実行となれば、中国の行く手には深刻な制約が立ちはだかる。



問題の1つは、アメリカの封じ込め戦略と距離を置く動機づけとして、日本に何らかの譲歩をする用意があるかどうかだ。中国は少なくとも、領有権問題や南シナ海での覇権拡張行動、軍事力強化、一帯一路など、日本にとっての主要な懸念に対処する必要がある。もっとも、その多くは習が主導する政策であり、日本の意を迎えるためだけに大規模な見直しを行うことは考えにくい。

もう1つの問題は、日本が根本的に70年来の同盟国であるアメリカのほうを戦略面ではるかに信頼していること。いざとなれば、日本政府はほぼ確実に中国ではなくアメリカを選ぶだろう。

こうした地政学的現実は令和時代になろうと劇的に変化しない。そして中国はそうした点をはっきりと認識している。

となれば、今後の日中関係を占うことは難しくない。表面的には友好ムードが高まり、対立は減るだろう。だが日中関係の本質は、これからもこれまでどおりだ。

<本誌2019年04月16日号掲載>



※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。


ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学教授)

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