ウクライナの喜劇俳優とプーチン、笑うのはどっちだ?
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月23日 18時20分
こうしたこと全てが、ゼレンスキーにとって重大な地政学的危機となる。彼の唯一の政治経験はテレビ番組で演じた大統領役だ――それもアメリカのドラマ『ザ・ホワイトハウス』に登場するジョサイア・バートレットのような聡明で強い大統領ではなく、笑いを取ることが狙いの大統領だった。
ゼレンスキーの勝利には、イタリアの反体制派運動「五つ星運動」やアメリカのドナルド・トランプのように、国内のエリート層に対する怒りが生んだポピュリスト的要素があると指摘する声も一部にある。ゼレンスキーは政治について語った際に、ウクライナに根付いた腐敗のネットワークと闘い、ロシアとの紛争を解決することを約束した。
新世代の指導者を求めた有権者
ゼレンスキーはまた、ウクライナの守旧派の痛いところを突いている。ウクライナでも指折りの富豪であるポロシェンコ政権の下、ウクライナは欧州で一番汚職がひどい国の一つと、トランスペアレンシー・インターナショナルは言う。そしてポロシェンコは、必要な改革をなかなか実行しなかった。ポロシェンコの不支持率は55~65%にのぼると、米ウィルソン・センターの上級顧問、ミハイル・ミナコフは言う。「ある調査では、ポロシェンコが連想させる汚職や手つかずの改革、分断を煽る国家イデオロギーなどには73%の有権者がノーと言っている」
ゼレンスキーの最大の強みは、ほとんど知らない者がいないほどの知名度と巧みなショーマンシップだ。彼は、決選投票に向けた大統領討論会の会場を、欧州サッカーの興奮冷めやらぬキエフのオリンピック・スタジアムで行うことを主張した。討論会の間、ゼレンスキーがウクライナの経済不振を批判すると、彼の支持者たちが大声で賛意を表した。ゼレンスキーは、ウクライナ軍の兵士を讃えるために跪きさえした。
ゼレンスキーの勝利は何より、ウクライナ人が新しい世代の指導者を求めていることを表している。「ゼレンスキー陣営は、SNSなどの利用で創造性を発揮し、すべての世代、所得階層、宗教の心に訴えた」と、ミナコフは言う。
だが、汚職と戦うゼレンスキーのイメージは、すぐに脅かされることになるかもしれない。ウクライナ最大手の金融機関PrivatBankの所有者だった新興財閥イホール・コロモイスキーは、ゼレンスキーのメインの支援者とみられている。だが、PrivatBankは2016年、詐欺容疑で国有化されている。先週、ウクライナの裁判所は国有化は無効としたが、この法廷闘争はこれからも続く。そこからどんな醜聞が飛び出すかわからない。
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