去りゆく象徴、善良なる男性、平成日本の「普通の天皇」
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月24日 11時10分
<私は1度だけ、今上天皇にお会いしたことがある――。震災体験の中で本領を発揮したその人物像を、本誌の元東京支局長が思い起こす>
※ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE 「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」が好評発売中。平成の天皇像、オウム真理教と日本の病巣、ダイアナと雅子妃の本当の違い、崩れゆく大蔵支配の構図、相撲に見るニッポン、世界が伝えたコイズミ、ジャパン・アズ・ナンバースリー、東日本大震災と日本人の行方、宮崎駿が世界に残した遺産......。世界はこの国をどう報じてきたか。31年間の膨大な記事から厳選した、時代を超えて読み継がれる「平成ニッポン」の総集編です。
(この記事は「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」収録の書き下ろしコラムの1本)
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そのとき、歴史を振り返らずにいることは不可能だった。昭和天皇の大喪の礼の当日、弔意を示すべく参列する各国指導者などの要人の到着を、ほかの取材陣と一緒に待っていたときのことだ。
一国を治める「現人神(あらひとがみ)」から「普通の人間」に転じた存在、それが昭和天皇だった。彼を崇拝の対象としたこの国は破滅的な戦争に突き進み、敗戦後の廃墟と焦土の中から驚異的な復活を遂げた。太平洋戦争は、昭和という時代を区切る2つの出来事のうちの1つだ。
大喪の礼の数日前、皇居前で記帳したときのことは今でも覚えている。日本のメディア関係者がたちまち私を取り囲み、アメリカ人のあなたがなぜそんなことをするのかと質問した。答えは単純だと、私は言った。戦後の日本という国の在り方に敬意を表するためだ、と。
戦後、日本は平和憲法を有し、世界2 位の経済大国に変貌する奇跡を成し遂げ、アメリカが率いる民主主義陣営の強力な一角になった。こうした変化の総体こそが昭和という時代を区切るもう1つの出来事であり、そのそれぞれが画期的な出来事だった。
それと比べて、平成はどんな時代だったのか。思い浮かぶのは「安定」と「普通」という言葉だ。今の天皇その人がそうした特徴を体現していたと、私には思える。
私は1度だけ、天皇にお会いしたことがある。1994 年の訪米を前に、数人のアメリカ人記者が招かれた懇談の場でのことだ。優雅な美智子皇后と共に、彼は心の籠もった握手をし、にこやかに私たちと話をした。実に礼儀正しく、伝統が深く根差す国で皇族として育った人物にしては、実に普通の人物という印象だった。
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