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去りゆく象徴、善良なる男性、平成日本の「普通の天皇」

ニューズウィーク日本版 / 2019年4月24日 11時10分

彼が天皇であった時代、日本もまたそうなった。つまり「普通の国」に。

もちろん、戦後世界において富と影響力を持つ大国となったこの国では、平成になってからも国際社会の注目を集める複数の出来事が起きた。いわゆるバブルとその崩壊。低成長からゼロ成長に至る長い経済低迷(私は本誌記事で「失われた10年」と形容した)。そして1995 年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故という大惨事もあった。

天皇は日本が激動に見舞われた2011年、本当の意味で名を成した。私はチェチェンやアフガニスタン、イラクの戦場を取材したことがあるが、津波が襲った後の東北地方で目撃したような惨状と破壊はこれまでに目にしたことがない。それはまさに、言葉では表現できない光景だった。



即位以来、皇室と国民の距離を縮めることを願ってきた天皇は、国民が苦しみと衝撃と圧倒的な悲しみの中にあったそのとき、自らの誓いを実行に移した。彼は国民に向けて歴史的なビデオメッセージを発表し、連帯して「不幸な時期を乗り越える」ことを呼び掛けた。皇后と共に避難した人々を見舞い、被災地を訪れた。被災者の力と慰めになろうとする感動的な姿こそが、私にとっては今の天皇の歩みのクライマックスだ。

彼は威厳がありながらも共感に満ち、天皇という存在を人間的なものにすることに成功した。後世に残る彼の功績とは、その点だろう。愛する故国が負った痛ましい傷を少しでも癒やそうと、力の及ぶ限りのことをした善良で立派な男性──天皇が退位した後、私は彼をそんな人物として思い起こすに違いない。

<「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」掲載>

「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」書き下ろしコラム
長岡義博:平成は日本人に「無常」を教えた──バブル崩壊から原発事故、そして次の「非常識」
ピーター・タスカ:失われた20年に「起きなかったこと」に驚く──平成は日本を鍛え上げた時代
コリン・ジョイス:国技館で天皇を見た、平成は立派で前向きな時代だった
デーナ・ルイス:平成の日本:「新しい不平等」の受け入れと、無関心の仮面の下に見たもの

※詳しくは「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」をご覧ください。


ビル・パウエル(本誌シニアライター、元東京支局長)


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