英王妃の生首は本当に喋ろうとしたのか
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月25日 17時34分
<人間は、頭と体が切り離されても生き続けることができるのか、歴史に残る逸話の科学的な妥当性を考える>
歴史をひもとけば、首を切り落とされた後も人々の意識がしばらく残っていたという逸話はいくつもある。
例えばフランス革命のさなかの1793年、シャルロット・コルデという女が政治家ジャンポール・マラー暗殺の罪でギロチンにかけられた時のこと。切り落とされた首をそばにいた男が持ち上げてその両頬をひっぱたいたところ、コルデの顔に怒りの表情が浮かび、頬が赤くなったとの目撃談が残されている。
また、イングランド国王ヘンリー8世の2人目の妻でエリザベス1世の母であるアン・ブリンは、斬首刑に処された直後、何かを言おうとする様子がみられたといわれる。
アン・ブリンの処刑 Public Domain
果たしてこれらの逸話は作り話なのだろうか。それとも体と切り離された後も頭部には意識が残りうることを示す科学的証拠なのだろうか。
近年、世界初の人間の頭部移植なるものに世間の強い関心が寄せられたことは記憶に新しい。もしこれが実現すれば、科学のさまざまな分野で新たな局面を切り開くことになるかも知れない(ただし、可能性は増すどころか少なくなる一方だが)。
<関連記事>世界初の頭部移植は年明けに中国で実施予定
中でも注目されるのは、頭(そして脳)が体と切り離されても生き続けることができるのか、できるとすればそれはどのくらいの時間なのかという点だ。
心停止後30分も脳の活動は続く?
脳およびあらゆる神経組織は、酸素がなければ機能できない(脳は人体が消費する酸素の20%を使っている)。首の血管が切断されれば酸素の供給は止まる。血液や組織中に残った酸素を使うことができたところで長くは続かない。
目や口を動かす筋肉もそうだが、脳につながっていなければ人間は体の一部を動かすことはできない。脳からの指令を伝える神経がつながっていなければならないからだ。もっとも、頭だけになっても人間より長い時間、生き続けられる生物もいる。例えば中国では、頭を切断された毒ヘビに噛まれた料理人が死亡した例があるという。この時、ヘビは首を切られてから20分も経っていた。
アン・ブリンがヘンリー8世の王妃になり斬首されるまで
さらに最近、この分野では、死に瀕した時に人間は何を認識しているかという問いに関心が集まっている。心臓発作や心拍停止を経験した人が、蘇生措置を受けている間に自分に何が起きていて病室内の様子はどうだったかを後で証言するというケースもある。これはたとえ心臓が止まっていても、脳は周囲で何が起きているかを認識していることを示している。たとえその時点で、臨床的には意識がある兆候はまったく見られなかったとしてもだ。
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