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リビア民兵組織将軍の、裏目に出たトリポリ進軍作戦

ニューズウィーク日本版 / 2019年5月4日 14時20分

だから今回の進軍宣言も口先だけで、ひとまずトリポリは包囲するが流血の事態は避けるつもりだったのかもしれない。しかし、それだけでも国際社会や国内の有力部族から見放される恐れがある。



国内でも国外でも、ハフタルの株が上がるのは油田の権益と安全な操業の守護者と見なされた場合に限る。油田への攻撃などは論外だ。彼自身は忘れているかもしれないが、この内戦を交渉によって解決し、選挙を実施するという点で、国内の諸勢力は(少なくとも口先では)一致していたのである。

しかしハフタルは話し合いより武力攻撃を選んだ。もはや将軍というより暴君にしか見えない。トリポリ進軍で、東部政府の後ろ盾だったアラブ首長国連邦(UAE)までもが彼を非難する共同声明に名を連ね、国内の有力部族も敵に回した。

彼は従来、フランスやロシア、エジプト、UAEとの良好な関係を深めつつ、西部の国民合意政府を支援する国連やイタリア、イギリス、アメリカとも一定の協調的な姿勢を取ってきた。

一方でソーシャルメディア上の偽アカウントを使って国内外に向けた情報発信も行っているが、外交戦略も含めて、その背後にはロシアの影がちらつく。

南西部でこの3カ月間に行われた進軍や軍事作戦では統制が取れており、彼こそがリビアの新たな支配者にふさわしいと思わせる雰囲気があった。

17年のベンガジ解放宣言以降、LNAは犠牲者を極力出さないよう、少しずつ支配地域を広げてきた。この3年に東部で「石油の三日月地帯」の油田や石油ターミナルを占拠。現地でカネをばらまいて既成事実を積み上げる手法を取り、抗争の泥沼化を避けてきた。16年9月の三日月地帯に続いて、今年2月には南西部のシャララ油田も制圧したが、どちらも派手な戦闘はなく犠牲者も少なかった。

以前からトリポリ制圧を口にしてはいたが、実際に兵を動かすことはなかった。そして順調に支配地域を広げるにつれ、彼は欧米の政府や国際会議に招待されるようになった。油田地帯をほぼ掌握した時点で、国際社会からもリビアの真の実力者、まともな交渉相手と認められる一歩手前まで来ていた。

交渉失敗なら火の海に

つまり、過去1年間の戦略は功を奏していた。それでも彼は、トリポリを掌握して政治的・軍事的支配者の地位を確立するという夢を捨てられなかった。

この誇大妄想のせいで、彼はせっかく手にした地位を失うような行動に出てしまった。するとフランスやイタリア、イギリス、アメリカ、そしてUAEが共同声明を発表し、事態の即時沈静化を求めるとともに、国際社会は国連主導の国民会議による和平プロセスを支持すると明言した。この時点で、彼の作戦は裏目に出たといえる。

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