人類の英知が導いたブラックホール初撮影
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月7日 18時45分
<巨大ブラックホールの撮影に国際研究プロジェクトが初めて成功......アインシュタインの相対性理論からの長い道のり>
銀河の中心にある超巨大ブラックホールの姿を、ついに私たちは写真で見た。見えざるものを、ついに見たのである。
その不思議な写真は、輝くプラズマの発した電波を捉えたもので、光ですら脱出できないブラックホールの境界、いわゆる「事象の地平面=イベントホライズン」を影絵のように写し出していた。
M87銀河にある超巨大ブラックホールの「可視化」は、世界中の200人以上の科学者、エンジニアが協力して各地の高性能な電波望遠鏡多数を連携させた成果だ。ここに至るまでの長い道のりを振り返ってみたい。
まずは1783年にイギリスの天文学者ジョン・ミッチェルが「暗黒の星」の概念を提唱した。極めて密度の高い星では光の粒子でさえ、その重力圏を脱出できない(だから目に見えない)という仮説だ。以来、天文学はずいぶん遠くまできた。
今年1月には、いて座Aスターから電波が放出されている画像が発表された。いて座Aスターは、私たちがいる銀河(天の川)の中心にある超巨大ブラックホールを取り囲む領域だ。その画像はイベントホライズンの9倍の大きさまで捉えていた。
そして今、国際研究プロジェクトのイベントホライズンテレスコープ(EHT)が、地球から5500万光年離れたM87銀河の超巨大ブラックホールのイベントホライズンの画像解析に成功した。ノーベル賞級の功績は、何世代にもわたる発見と洞察のたまものだ。
20世紀初頭にアルバート・アインシュタインが相対性理論を発表してから、科学は大幅に進歩した。1916年には天文学者のカール・シュヴァルツシルトとヨハネス・ドロステが別々に、アインシュタインの方程式によって数学上の特異点を含む解を導き出した。そして20~30年代には、原子物理学者たちがある結論を下した。質量が重くなり過ぎた星は重力崩壊を起こして特異点に至り、その生涯を終えて「凍結する」と。
内部の研究は今も続く
「凍結した星」は、アインシュタイン理論における時間の奇妙な相対性を示している。つまり、崩壊した星を取り囲むイベントホライズンは、外部から観察すると、時間が止まっているように見えるのだ。
その後、特異点の概念は量子力学に取って代わられたが、ブラックホールの表面と内部については今も研究が進められている。
ミッチェルが予見した「暗黒の星」は私たちの銀河に何百万もあると考えられるが、イベントホライズンは小さ過ぎて観測できなかった。仮に私たちの太陽が崩壊してブラックホール化した場合、そのイベントホライズンは直径3キロ程度だ。
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