シリアのイドリブ県で戦闘が激化するなか、政府軍が再び化学兵器攻撃か?
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月22日 19時30分
だが、欧米諸国が長らく「シリア国民の唯一の正統な代表」とみなしていたシリア国民連合(連立)をはじめとする反体制派のなかには、「もっとも成功した反体制派」(The Washington Post, November 30, 2012)だったヌスラ戦線をテロ組織とみなすことに異議を唱える者が少なくなかった。
シャーム解放機構は、名称変更後もしばらくはテロ指定を免れた。だが、米国務省は2018年5月、シャーム解放機構をFTO、SDGT(特別指定グローバルテロ組織)に指定(ヌスラ戦線の別名として登録)、トルコも同年9月に彼らをテロ組織とみなす政令を施行した。国連のアル=カーイダ制裁委員会リストにも、シャーム解放機構はヌスラ戦線の別名として登録されている。
社会通念上、そして国際法上、シャーム解放機構はアル=カーイダで、国際テロ組織とみなし得ると断言してよいだろう。
シリア・ロシア両軍による激しい攻撃再開
クバイナ丘での塩素ガス使用疑惑は、シリア・ロシア両軍が、イドリブ県を中心とする反体制派支配地域、すなわち緊張緩和地帯第1ゾーンへの爆撃を強め、シリア軍地上部隊が同地への進攻を開始するなかで浮上した。
筆者作成
シリアにおける停戦の保障国であるロシアとトルコは2018年9月、緊張緩和地帯とシリア政府支配地域の境界に非武装地帯を設置することを合意、トルコはそこから過激派(シャーム解放機構など)を排除することを誓約した。攻撃は、トルコがこの合意を履行しない(できない)ことに業を煮やすかたちで始められ、4月30日以降に激しさを増していった。
シリア・ロシア両軍は、学校、病院、ホワイト・ヘルメットの拠点、さらには民家を狙った。シリア人権監視団によると、5月19日現在、492人の死亡が確認されており、うち173人が民間人だという。また国連によると、15万人が爆撃・砲撃や戦闘を避けて家を離れ、その一部は「オリーブの枝」地域、「ユーフラテスの盾」地域と呼ばれるトルコ占領下のアレッポ県北西部への避難を余儀なくされているという。
イドリブ県は誰の手の中にあるのか?
英仏独の外務省は5月13日の共同声明で、「住宅地への爆撃」、「無差別砲撃」、「樽爆弾」、「学校や医療センターへの攻撃」、「国際人道法へのあからさまな違反」といった言葉を連ねて、ロシアとシリア政府を非難した。だが、こうした非難が当てはまるほど、事態は単純ではない。
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