「ゾウの天国」ボツワナがゾウの狩猟を解禁
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月27日 19時0分
「これらの結果からは、この1年あまりボツワナ北部で大規模なゾウ密猟問題が起きていることがうかがえる」
調査では、密猟されたとみられるゾウの死体のほぼすべてがオスだったことも明らかになっている。密猟者は牙の大きいオスを狙う。つまりボツワナは、東アジアで需要が高まっている違法象牙の供給地へと急速に姿を変えつつあるのだ。
もし政府が慎重に対応しなければ、この10年間のタンザニアやモザンビークのように、密猟が社会に根を張ってしまう。
恣意的な「環境収容力」の議論
トロフィーハンティング再開を主張する人々は、「余剰の」オスのゾウを狩ることで生息数を抑制できるうえに、狩猟・食肉関係の雇用を供給できると主張する。
だが環境収容力という議論はもはや時代遅れだ。自然保護の研究者によれば、環境収容力はボツワナのように柵がなくて広大で、多様な生態系がある、という土地にはあてはまらない。「この地域では1平方キロあたり0.4頭のゾウしか維持できない」などという議論は現実を無視して作られたものだ、というわけだ。
オスの成獣が多過ぎる、というのも嘘だ。オスのゾウがうまく子作りができるようになるのは35歳を過ぎてからで、子の大半は40歳を過ぎてから生まれたものだ。見栄えのいい若オスを数頭選んで殺したところで生息数の抑制には役に立たない。同様に、ゾウを狭い地域に追いやるのも、人間との争いを減らす役には立たない。狭いところに追い詰められれば、ゾウはさらに攻撃的になるからだ。
狩猟を上回るフォトツーリズム
マシシは枠を設けてきちんと管理すれば狩猟はすぐれた環境保護策になるとの議論を持ち出したようだ。
だが狩猟の制限付き解禁がうまく機能することはほとんどない。そしてせっかく数を制限したところで、倫理観に欠けた人々がいれば意味がない。割当枠を守ろうとするインセンティブより、多く取ることへのインセンティブのほうが強くなるから、その先に待っているのは生態系が維持可能な数より多くの個体が狩られる乱獲というありがちな悲劇だ。
おまけに写真撮影を楽しむフォトツーリズムで利益を得ている人々の声がまるで無視されている。動物や自然の写真を撮るのが目的の「フォトグラフィックサファリ」は、トロフィーハンティングよりも持続可能だ。昨年、観光業(フォトツーリムズが大半で狩猟は行わない)が支えた雇用は8万4000人分に達したのに対し、狩猟による雇用はピークだった2009年でもたった1000人分だった。
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