自殺した人の脳に共通する特徴とは
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月8日 15時30分
それでも、リッチマンが望んだように脳科学の研究は目覚ましい進歩を遂げている。研究が進展し始めたきっかけは、コロンビア大学とニューヨーク州精神医学研究所の研究者たちによる25年以上前の発見だった。
この研究チームは、鬱病の病理を解明する目的で自殺者の脳を集め始めた。自殺者は鬱に悩まされていた可能性が高いと考えてのことだった。ところが遺族に話を聞くと、意外なことが分かった。自殺者の約半数は鬱病ではなかったのだ。
自殺者とそれ以外の死因で死亡した人たちの脳を調べると、さらに意外なことが明らかになった。生前の鬱病の有無に関係なく、自殺者の脳にはしばしば共通する神経学的特徴が見られたのだ。
「自殺に関わりのある脳の異常が存在すると思っている人は、当時誰もいなかった」と、この研究に参加した1人であるコロンビア大学のJ・ジョン・マン教授(精神医学)は言う。
結果を考える前に行動
この四半世紀、マンは共同研究者たちと共に、自殺傾向のある人とない人の違いを明らかにしようと努めてきた。そのために、脳の神経伝達システムの生化学的分析を行ったり、神経の活動を調べるための画像検査を行ったりした。
彼らの研究によると、自殺者の90 %は、自殺した時点で何らかの精神疾患を発症していた。鬱病などの精神疾患がある人は、脳で感情をつかさどる扁桃体が過度に活性化されていることが知られている。
しかし、自殺者に共通する主要な脳の異常(例えば神経細胞が少ないことや皮質が薄いことなど)が見られた部位は、扁桃体ではなかった。そのような違いが見られた部位は、脳の前部帯状皮質と背外側前頭前皮質だった。これらは、自らのストレスの度合いを主観的に判断するプロセスに関係する部位だ。
「客観的に見た症状の深刻さは同じでも、この人たちは主観的に感じる鬱症状がはるかに深刻だったのだろう」と、マンは言う。「このような人たちは、感情をコントロールすることが苦手なように見える。彼らが主観的に感じているストレスは、自殺行動のリスクがない人より大きい。自分が鬱状態にあることを感じ取るセンサーが過度に鋭敏だと言ってもいいだろう」
自殺者の脳は、意思決定に関わる部位にも異常が見られた。自殺リスクの高い人たちは、意思決定が必要な課題を与えられたとき、リスクの高い選択をする傾向がある。
自殺リスクが高い人は、否定的な情報を受け取ると過敏に反応する一方、肯定的な情報にはあまり反応しないようだ。そのため、世界を冷淡で敵対的な場と感じる傾向が強い。
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