ロシア汚職追及記者、異例の解放はプーチン体制終焉の始まり
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月12日 18時0分
ゴルノフの逮捕に対する抗議に関しては、独立系ジャーナリストと国営メディアの記者たちとの間に団結と連帯が生まれるというきわめて珍しい事態が起きた.
6月10日の午後、主要な国営テレビ2社のジャーナリストたちは、ゴルノフの容疑に対する疑問をカメラの前で口にした。ロシア外務省のマリア・ザカロワ報道官はゴルノフ釈放の発表を聞いて「涙が出た」と自身のフェースブックに書いた。
ただ、政府に近い人々がゴルノフ釈放を支持する態度を公然と見せたのは、この問題を政府と切り離すために政府が仕掛けた作戦かもしれない。
「国営企業の記者たちは完全に独立して行動しているわけではない」と、欧州政策分析研究所のマリア・スネゴバヤ研究員は言う。ゴルノフの逮捕の責任を警察幹部数人に押しつければ、不満のはけ口を作り、プーチンの政治体制全体に対する監視と追及の目をごまかすことができる。
プーチン退任の時が刻々と迫る一方、後継者についてはまったく未知数の状態が続いている。先の見えない将来に直面した政府当局者や有力な新興財閥は自らの権力を強化し、蓄えを増やそうとするため、党の中堅幹部が率先して動く今回のような事例が増える、と専門家は考えている。
プーチン主義は停滞
「人々は基本的にプーチン政権の終焉に備えて準備をしている。トップが帰趨を明らかにするまで、ますます多くの人々がいわゆる『囚人のジレンマ』に陥っていることに気づくことになるだろう。彼らは誰かに先を越されて損をする前に、自分から行動しようと考える」と、ウェーバーは言う。
ロシアの権力システムはゆっくりと共食いをし始めていると主張するのはロシアのアナリスト、タチアナ・スタノバヤだ。その証拠となるのは、今年、ロシアとのビジネス上のもめごとの最中に逮捕されたアメリカ人投資家マイケル・キャルベイをはじめ、元官僚や著名人の逮捕が急増しているという事実だ。
「プーチン主義は『停滞』の時代に入った」と、ガレオッティは言う。「停滞」とは、旧ソ連のブレジネフ政権の時代について使われた言葉だ。
「昔は官僚たちも、政府に忠実に尽くすことが一番自分の利益になると思っていた」とガレオッティは言う。
だが、国際的な孤立や経済成長の鈍化、そして大統領が外交面での冒険主義に気を取られていることなどから政治体制が揺らぎ、政府は以前ほど忠実な人々に報いることができないばかりか、反乱がこわくて逆らう者を思い切って処断する力もなくなっている、とウェーバーは言う。
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