アメリカに見捨てられたISIS掃討戦の英雄たち
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月12日 11時48分
米軍に対する感情は複雑
SDF(アメリカの資金援助で現有勢力は推定6万人)にとってもアメリカの対テロ戦にとっても、米軍の駐留継続は必要だと考える専門家もいる。
18年にシリア北西部のクルド人支配地域にトルコ軍が侵攻したとき、SDFは応戦に追われ、間隙を突いてISISが戻ってきた。今のSDFに、2つの敵と同時に戦う力はない。
「米軍が明日消えたらSDFは崩壊するだろう」と言うのは、戦略国際研究センターで多国間脅威プロジェクトを担当するマックス・マークセンだ。
シリア北西部の5%までを支配するに至ったテロ組織アルカイダの系列組織、シリア解放機構も脅威だ。
点在する小さな武装勢力は、アフガニスタンやアフリカ、フィリピンのISIS関連組織同様に、 将来の紛争の種になるかもしれない。
「アルカイダにとって、シリア戦争の経験はアフガニスタンと同じくらい有益なものになる」と、シリア問題に詳しい米軍事研究所のジェニファー・カファレラは語っている。「シリアは第2のアフガニスタンになる」
現時点で、クルド人はあらゆる選択肢を検討しているようだ。クルド人の代表は12月に、アサドと同盟を結ぼうとする動きも見せた。停戦と引き換えに、何らかの自治権獲得を目指す彼らの戦いを諦める動きだ。一方で彼らはアメリカに期待しているが、あいにくトランプ政権の出方は予測不能だ。
ウォール・ストリート・ジャーナルは3月中旬、米軍指導者たちがシリアに1000人規模の部隊を駐留させる計画を立案したと報道した。
それはアメリカ、ヨーロッパ、トルコ、クルドの指導者の間で、シリアの「安全地帯」に関する協議が長引き、意見の不一致があったためだろう。だが発表から数時間後、ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長は、報道が「事実の点で不正確」だと論評した。
ダンフォードの声明には、「われわれは米軍の残留という大統領の指示を引き続き実行している」とあった。
シリア国民のアメリカに対する思いは複雑だ。ハジン出身の30歳の農民アブドゥラ・サリムのように、クルド人部隊だけでも勝てると考える人もいる。「ISISが戻ってきたり、トルコの侵略者がやって来たら、ここの部族が追い返す」。彼はそう言った。「アサド政権が攻めてきても同じことだ」
だが不安を漏らし、米軍を頼りにする人々もいる。シリアの北部マンビジに暮らす電化製品の営業マン、ワルシン・シェコ(27)は内戦の激化でシリアから脱出し、2月に帰国するまで4年間トルコに住んでいた。
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