アメリカに見捨てられたISIS掃討戦の英雄たち
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月12日 11時48分
彼の住む町の南側にはアサド政権の支配地域があり、西側と北側にはトルコの支配地域がある。この町はまた、クルド人の多くが住んでいるロジャバへの入り口にもなっている。
「私のいとこたちはトルコに電話をかけてきて、マンビジの生活状況はいいし、安定している、悪い人はいないと言っていた」。彼は自分の店のガスコンロで手を温めながらそう語った。
「帰国後の今になって、アメリカ人が去るという話を聞いて、率直なところ、私はとても悲しくなった。いとこには、私たちにこれから何が起こるか様子を見ようと言った。アメリカ人がいる今は、状況はいい。ここは安定しているし、人々はいい職を得て、真面目に働いている」
マンビジで店を営むカミス・モハメド(42)も、アメリカはクルド人を保護するために滞在しなければならないと主張する。「事実として、アメリカがここにいる限りトルコは私たちに手を出せない」からだ。
ISISはさらに過激化
だがISISは平気で手を出してくるだろう。米軍の幹部も、ISISはシリアで領土を失ったが形を変えて生き延びていると警告している。
「いま私たちが目にしているのは、組織としてのISISの降伏ではない。むしろ家族の安全を図り、戦闘能力を温存するという計算に基づく個別的な退却だ」とジョゼフ・ボテル中央軍司令官は語っている。「ISISは『カリフ国』の支配地域から撤退したが、その戦闘員の大部分は悔い改めることも、打ちひしがれることもなく、一段と過激化している」
筆者がシリアに入る前の1月16日にも、アメリカ人4人(米兵2人と国防総省職員を含む)がマンビジにある欧米人に人気のレストラン前で、自爆テロにより殺害。16人もの民間人も犠牲になった。マンビジには4年以上前からISISはいないとされてきたのだが、ISISのメンバーが犯行声明を出した。
爆破されたレストランは1週間足らずで営業を再開した。アブ・オマル(30)は、近くの店先でその様子を見ていた。「あれはテロリストの仕業だ。そして私たちを守り、私たちのために戦うはずのアメリカ人を傷つけた以上に、私たちとこの町を傷つけた」と彼は言う。「私たちは、人間が尊厳を持って生きることができるまともな生活をしたいだけだ。自爆テロで子供が殺されることのない静かな生活をしたいだけだ」
<本誌2019年4月16日号掲載>
※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。
ケネス・ローゼン(ジャーナリスト)
この記事に関連するニュース
-
ニュースでよく聞く「ヒズボラ」ってそもそもなに?イスラエルとの戦闘はなぜ続くのか【中東情勢すっきり解説】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月26日 21時0分
-
米とイラク、連合軍撤退計画で合意 26年末にかけ2段階=当局筋
ロイター / 2024年9月9日 12時55分
-
アフガニスタンが国際テロの「発射台」に? 米軍撤退3年後、拡大するアルカイダの影
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月2日 13時10分
-
アフガン駐留は「負の遺産」 米軍撤退完了3年、消えぬ批判
共同通信 / 2024年8月29日 17時11分
-
トランプ氏のスタッフ暴言か 国立墓地でトラブル、陣営は反論
共同通信 / 2024年8月29日 9時52分
ランキング
-
1中国大使「深圳の事件、冷静に対処する」 都内で中国建国75年レセプション
産経ニュース / 2024年9月26日 19時23分
-
2イスラエル軍がアルジャジーラの支局を閉鎖、活動休止を命ず 支局長「出ていく気はない」
産経ニュース / 2024年9月26日 21時25分
-
3中国、海自艦の台湾海峡通過めぐり「政治的な意図を警戒」 中国外務省報道官が表明
産経ニュース / 2024年9月26日 17時36分
-
4香港ネットメディア前編集長に禁錮1年9月…報道を「扇動」と判断、香港返還後で初
読売新聞 / 2024年9月26日 23時45分
-
5ウクライナに1兆円超支援 米、来月独で首脳会合主催
共同通信 / 2024年9月26日 22時47分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください