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あいちトリエンナーレの展示中止騒動をめぐって

ニューズウィーク日本版 / 2019年8月6日 12時0分

僕は8月3日の緊急記者会見で、知事に「両氏の発言は憲法21条違反だと考えないか」と問うたが、その時点では「菅さんの発言は(補助金交付に関わる)事業としてどうだったかということ。事業の手続の中で精査していきたいということだから、それ以上でも以下でもない。河村さんのご意見は内容についてのご意見なので、それに対してコメントすることは(展示の)内容にコミットすることになるので言わないことにしている」という答だった。「行政が芸術祭の内容に口を出すと、表現の自由を制約することになるので、それはしない」というまっとうな見識である。

そして大村知事は5日、河村市長の発言は「憲法21条で禁止された『検閲』と取られてもしかたがない」と一転。「行政や役所など公的セクターこそ表現の自由を守らなければいけない。自分の気に入らない表現でも、表現は表現として受け入れるべきだ」と述べた。知事と市長は昨年来、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致や名古屋城天守木造化問題をめぐって不仲と言われるが、それをさっ引いてもまったくの正論である。河村市長は「ああいう展示は良いんだと県が堂々と言って下さい」と反論したそうだが、そうじゃにゃーのよ、市長。知事の言うとおり、内容についてはコメントしにゃーというのが、民主主義の基盤をなす表現の自由を守るべき行政のどえりゃー正しい態度なんだわ。

「検閲の可視化に成功した」などといって浮かれていてはならない

今回の展開を津田監督は予想していたのだろうか。SNSの炎上も、大量の電話やテロ予告も、ポピュリズム右翼政治家の発言も、すべてがシナリオに書かれていたのだろうか。

そうかもしれないし、そうではないかもしれない。いまごろ津田氏はひとりほくそ笑んでいるのかもしれないが僕にはわからない。身の危険を感じたり、業務に多大な支障が生じたりしたトリエンナーレおよび愛知県のスタッフや、抗議の意を込めて自作の撤去を要請したふたりの韓国人作家を含めた出展作家には気の毒と言うしかないけれど、いずれにせよ、この国の一部の為政者たちがとても情けない反民主主義者だということが知れ渡ったのはよかった。とはいえ、「検閲の可視化に成功した」などといって浮かれていてはならない。

冒頭に記した元都知事は、その後も暴言を繰り返した。MOTではアーティストユニットの会田家(会田誠+岡田裕子+会田寅次郎)による作品に長谷川祐子チーフキュレーターが撤去要請を出し、作家ははねつけたが、館も長谷川氏もいまだに、謝罪はおろか約束した経過説明すら行っていない。広島市現代美術館では、刘鼎(リュー・ディン)の作品が中国当局によって文字どおり検閲され、美術館は海外機関の意向に従う義務などないにもかかわらず、実質的にその検閲に加担した。同様の事例はほかにもある。

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