韓国政府が無視していた慰安婦問題を顕在化させたのは「記憶の活動家」たち
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月7日 18時55分
グラック教授 彼女たちがアメリカで声を上げ始めた背景には、1990年代にアイデンティティー・ポリティクスが盛んになったという事情がありました。アジア系アメリカ人たちは元慰安婦のために活動しているとはいえ、一方で慰安婦問題が自分たちのアイデンティティー・ポリティクスの一部になっていると言えます。
カリフォルニア州選出の下院議員マイク・ホンダが、2007年、「従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議」を下院に提出したのはなぜなのでしょう。ホンダは日系アメリカ人なのに、なぜ日本を非難する決議を求めたのか、考えてみてください。
スペンサー アジア系アメリカ人の票が欲しかったからですか。
グラック教授 そうです。彼の選挙区には韓国系アメリカ人や中国系アメリカ人がたくさんいたからです。つまり国によって、慰安婦問題を取り上げる背景というのは違うものなのです。背景は違えど、コウヘイが指摘してくれたようにこの問題をメディアが報じると、「公の」問題として注目されるようになります。
証言者たちが果たした役割
グラック教授 重要なポイントに近づいてきました。これまでは、記憶の活動家について話してきましたね。では、元慰安婦自身は記憶をつくる上でどのような役割を果たしたのでしょうか。
1991年に3人の元慰安婦が名乗りを上げ、日本政府を相手に訴訟を起こしたことで、元慰安婦たちの長い沈黙が破られました。それから、一人、また一人と自分たちの話を語り始めました。終戦直後はトラウマあるいは不名誉という思いがあって、語ろうとする人は少なかったでしょうが、なぜ1990年代には話せるようになったのですか。
ディラン 女性に対する暴力について、社会の態度が変わったからですか。
グラック教授 それは一つの要因ですね。では、元慰安婦たちがそれぞれ一人で声を上げていただけだったら、その声は社会に響いたでしょうか。
数人 ノー。
グラック教授 なぜ彼女たちの声が注目を集めることができたのか。記憶の活動家も、重要な役割を果たしたのです。前回の講義で個人の記憶の話をしましたが、個人の過去について話せない理由としては、トラウマがあるという心理的な要因も、誰もその声に耳を傾けたがらないという社会的要因もあります。ですが、今は社会が聞く耳を持つようになった。それがあってやっと、元慰安婦たちが口を開くことができるようになりました。ほかに、彼女たちが話せるようになった理由は何でしょうか。
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