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映画『ライオン・キング』は超リアルだが「不気味の谷」を思わせる

ニューズウィーク日本版 / 2019年8月9日 18時5分

野生動物を観察する醍醐味は人と異なる種の神秘に触れ、彼らの(少なくとも人間の言葉は話さない)沈黙の中に気高さを感じるところにある。その動物たちが急に歌い出し、気の利いたセリフを口にしたりすると、あまりの違和感に人はたじろいでしまう。

こうした超リアリズムが従来のディズニー・ファンに敬遠されるのを危惧したのか、アニメ版の雰囲気を徹底して忠実に再現した部分もある。

代表曲「サークル・オブ・ライフ」をバックにサバンナを駆け抜け、結集した動物たちに、ラフィキ(王の側近のヒヒ)が生まれたばかりの王子シンバを高々と掲げて見せるオープニングは、構図から編集までアニメ版にそっくりだ。

しかし動物たちの姿がリアル過ぎるせいで、人間(声優)の影が薄くなった感じがする。有名俳優や歌手、コメディアンと多彩で豪華なキャストを起用しているのに、そうした人のキャラが生かされていない。

声優陣はアフリカ系中心

シンバ役のドナルド・グローバーは今を時めくラッパーで俳優、恋人ナラを演じたビヨンセは泣く子も黙るポップ界の大スター。ビヨンセはカリスマ性あふれるステージで観客の目をクギ付けにするし、グローバーがチャイルディッシュ・ガンビーノ名義のミュージックビデオ「ディス・イズ・アメリカ」で見せたパフォーマンスも圧巻だった。しかし声だけだと、その肉体性が欠け落ちてしまう。

例えばピクサーの『トイ・ストーリー』は、玩具のリアルさを追求しなかったから、声の出演者の表情や特徴的な動きを反映できた。しかし今回のグローバーやビヨンセには、そうしたチャンスが与えられなかった。それなら誰も顔を知らない声優を起用してもよかったのに。

94年当時既に大人だった筆者は子供向けのアニメに興味がなく、アニメ版は見ていない。ずいぶんたってから舞台版を見て、その独創性には圧倒されたが、長子相続や親への屈折した感情を盛り込んだ男系社会の英雄譚(たん)には少なからぬ反発を覚えた。そして今の時代、青少年向けの冒険映画でも「運命に導かれて世界を救う少年ヒーロー」みたいな世界観にはさらに懐疑的だろう。



シンバはイボイノシシとミーアキャットのコンビに助けられて成長する ©2019 DISNEY ENTERPRISES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

さて、『ライオン・キング』の世界はプライドランドと呼ばれる王国。かつては平和だったが、王様ムファサが弟のスカーに殺され、王位を奪われてからは荒廃してしまう。

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