世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月16日 16時53分
一般にオオカミが狩りの対象とするのはエルクとシカだが、その個体数は全米各地で爆発的に増えている。そのせいで、餌となる樹木や草地が消滅してしまった地域も少なくない。
だがオオカミによる捕食で個体数が減った地域では樹木がよみがえり、鳥たちに巣作りの場所を提供し、強い根で土壌の浸食を防いでいる。おかげでビーバーは川にダムを築くことができ、清流には魚が戻っている。
遠い昔にオオカミやピューマが絶滅した地域は対照的だ。東部諸州ではシカの数が増え過ぎて、車との衝突事故により年間約150人もの死者が出ている。保護活動家はオオカミの再導入でシカの群れが間引かれれば、事故の件数が減ると考えている。だが牧場主の多くは、そういうメリットを感じていない。彼らは州当局がオレゴン州にいるオオカミの実数を偽っていると確信している。
牛の死亡例の95%は無関係
州内のオオカミ保護反対派はここ数年、陰謀論を広めている。オオカミの保護区を拡大するために、州政府がヘリコプターを使った秘密作戦で、オオカミを西に移動させたというのだ。
だがOR-7は、ハイイロオオカミが自力で長距離を移動できることを証明した。そしてカリフォルニア州は、この点に注目した。
OR-7が州境を越えた2年後、カリフォルニア州漁業狩猟委員会は州の絶滅危惧種法の下でオオカミを保護する決議を3対1で可決した。農業や牧畜関係者は反対したが、州政府に選択の余地はなかった。OR-7の絶対的な人気には勝てないからだ。
専門家の推定では、カリフォルニアに生息するオオカミは将来的に500頭くらいまで増える。現状の5倍だ。「OR-7はカリフォルニアを目覚めさせた。そう、ここにはオオカミがいる」と、スティーブンソンは言う。
しかし、オオカミを保護したくない州も多い。サウスダコタ州東部では「害獣」に分類されており、見つけたらその場で合法的に射殺できる。
アイダホ州は西部の玄関口であり、オオカミにとって重要な州だが、連邦政府によるオオカミ保護を州議会が取り消し、オオカミの狩りが一年中許可されている。同州のブッチ・オッター知事は推定770頭といわれるオオカミを150頭まで減らすと約束。オオカミを効果的に殺すために年間数十万ドルもの予算をつぎ込んでいる。
アイダホ州の漁業狩猟当局は、ヘリコプターからオオカミを狙撃する猟師を雇い、原生自然環境保全地域に罠も仕掛けた。表向きはエルクの数を増やすためとされるが、エルクの個体数は今でも目標値を超えている。
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