世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月16日 16時53分
オオカミが牛を殺すケースは、牧場主が訴えるほど多くない。農務省の報告によれば、牛の死亡例の95%、羊の72%はオオカミと無関係だ。
家畜の主な死因は呼吸器疾患や感染症、脱水、飢餓、出産合併症または有毒な雑草の摂取など。肉食獣による被害は、ほとんどがコヨーテや飼い犬、ピューマ、ボブキャットの仕業だ。オオカミはたまに家畜を殺すが、その代償に命を失う。
16年3月にオレゴン州ワローワ郡でOR-4(OR-7の父)の率いる群れが家畜5頭を襲う事件が起き、群れのオオカミ4頭が射殺された。ワイスによれば、リーダーのOR-4は年老いて、もはや野生の動物を狩ることができなくなっていたという。
保護活動家によれば、リーダーが殺されると群れは不安定になり、食料を求めてメンバーがより広い地域に分散し、結果的に家畜を襲う可能性が高まるという。しかし、オオカミが家畜を襲った事件は16年に24件だったが、17年には17件に減っている。
家畜の被害が減れば減るほど、オオカミが生き残る確率は高まる。例えばオレゴン州では州内を2つの地域に分け、それぞれに異なる個体数の回復目標を設定している。オオカミの個体数が増えるにつれて、保護の度合いは緩くなり、オオカミにとっては殺されるリスクが高まる。なにしろ州政府の保護政策に背を向けたオオカミ嫌いの人たちのモットーは「殺せ、埋めろ、秘密にしろ」なのだ。
一方、OR-7はオオカミ本来の暮らしを送っている。食べて、寝て、子を育てるだけだ。牧場主にとっては目の敵だが、保護活動家にはアイドルだ。
「今もOR-7の姿を見たくて、出合いそうな場所でハイキングやキャンプをしている」と語るベッキー・エルギンは『旅──歴史を作ったオレゴン・ウルフOR-7の驚くべき物語』という児童書の著者。「OR-7のおかげで、人々はオオカミが環境にどれほど重要であるかを認識し、オオカミが生息できるほど自然が残る地域に住むことがどんなに恵まれたことかを実感できる」のだと言う。
半年ほど前、オレゴンの野生生物学者スティーブ・ニエメラはジャクソン郡で道を走る1頭の動物を目撃した。OR-7だったと思いたいが、たぶんただの大型犬だろうと彼は言う。「あり得ないよな」。そのとき彼は仲間につぶやいた。「でもやっぱり、あいつだったと信じたい」
<本誌2019年1月1日、8日号掲載>
※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。
ウィンストン・ロス(ジャーナリスト)
この記事に関連するニュース
-
頭、脊髄、心臓に銃弾を受けて死亡したイルカが見つかる...有力情報には最大300万円以上の賞金
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月1日 16時40分
-
ジャイアントパンダ4頭が蘭州野生動物園でお披露目―中国
Record China / 2024年4月25日 19時20分
-
アングル:公園を追われるホームレス、「野宿の禁止」が米で議論に
ロイター / 2024年4月22日 18時46分
-
【海外発!Breaking News】背中から2本の脚が生えた6本脚のガゼル発見 「健康でたくましい」と専門家(イスラエル)<動画あり>
TechinsightJapan / 2024年4月11日 5時0分
-
湖北省の神農架でキンシコウの赤ちゃんが6匹誕生―中国
Record China / 2024年4月9日 12時30分
ランキング
-
1イスラエル、テレビ局アル・ジャジーラの支局閉鎖を閣議決定…警察が機器を押収
読売新聞 / 2024年5月5日 23時26分
-
2習主席の妻、軍の審査委員就任か 香港紙報道、SNSに写真出回る
共同通信 / 2024年5月5日 23時20分
-
3フランス、ロシアの偽情報に危機感 マクロン大統領の部隊派遣発言後…核兵器「議論用意」
産経ニュース / 2024年5月5日 17時16分
-
4イギリス地方選で与党・保守党が大敗、支持率最低レベル…14年ぶり政権交代が現実味
読売新聞 / 2024年5月6日 0時4分
-
5ガザ休戦交渉、平行線か イスラエル、戦闘終結拒否
共同通信 / 2024年5月6日 0時51分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください