カシミールを襲うインドの植民地主義
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月21日 17時40分
それでいて虐殺やレイプ、イスラム教徒とパンディットそれぞれの被害について司法機関に捜査を求めることはなかった。和平を模索することもない。ただこの地方を、ヒンドゥー国家支持者の集結地にしようとした。
今回のインドの動きは、極右の準軍事組織である民族義勇団(RSS)とその支持派、そして財界が支えるモディ政権与党のインド人民党(BJP)を利するだけだ。インドの国際的な信用は落ち、世俗的な民主主義国になる構想は葬られかねない。
政治家たちはそれを知りながら、今回の動きを支持している。反対すれば「反国家的」というレッテルを貼られるからだ。カシミールでの動きは、与党BJPとその思想的な支えであるRSSが「合憲」のクーデターを起こしたようなものだ。
この表現が言い過ぎだと思うなら、いまインドで起きていることが、強権的な手段で民主主義が覆されるという普通の現象以上の意味を持っていることに注目してほしい。RSSは膨大な数の支持者を全国のあらゆる組織や職業に擁している。彼らの夢は「統一インド」。パキスタンからバングラデシュまでを広く一国にまとめる大インド構想だ。この構想に反対する人々は、目下の事態に注目を集めることくらいしかできない。カシミール出身の非イスラム系女性である私も、その1人だ。
カシミールの人々は、インドによる暴政を道徳的な恥さらしと見なしている。インド国民も政府が勝手に抱いている幻想と、人間性を無視するような行動に抵抗しなければ、ヒンドゥー至上主義かつ植民地主義の国に生きていることに気付く日は遠くないかもしれない。
From Foreign Policy Magazine
<本誌2019年8月27日号掲載>
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※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直属・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。
ニタシャ・カウル(英ウェストミンスター大学准教授)
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