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和歌山カレー事件、林眞須美死刑囚の長男が綴る「冤罪」の可能性とその後の人生

ニューズウィーク日本版 / 2019年8月21日 17時55分


こうして施設内でいじめを受けながら育った4人のきょうだいは、成長した現在、別々の人生を歩んでいる。具体的には、著者を除く3人は両親との関係を断つことを選択し、母親の面会にも行っていないという。

一方、著者は、きょうだいの平穏な生活を守りたいという思いもあり、父親とふたりで母親を見守っていきたいと考えているそうだ。



「大事な娘を死刑囚の息子にやれるか!」

なお、「結婚願望が強すぎる」と自己分析している彼は、何度か交際女性のとの結婚を意識している。しかし、結婚に対する憧れはあるものの、なかなか実行に移せなかったようだ。「ぼくと結婚する人が、たいへんな重荷を背負うことになるのはたしかだ。生まれてくる子どもは、『死刑囚の孫』になるのだから」という思いがあったからだ。

しかし、何人かの女性との交際を経て、本気で結婚したいと思う相手と出会う。その女性は、"「父が前科者で、母は死刑囚」の施設育ち"という過去を受け入れてくれた。

女性の両親にはそれまで「両親は交通事故で亡くなった」と話しており、著者のことを息子のようにかわいがってくれた。そして結婚が具体的になり、先方の父親が「ご両親のお墓にもお参りしないといかんね」と言いながらビールを注いでくれたとき、著者は真実を明かすことを決意する。それ以上のウソをつくことはできないという思いからのことだった。

「あのぉ」 そこで一息ついてから、ぼくは一気に言った。「カレー事件ってありましたよね。ぼく、その息子なんです」 かなり言葉を省略したが、これで十分通じるはずだと思った。(中略)「もしかしたら素性を知っても、お父さんはぼくを受け入れてくれるのではないだろうか?」 という淡い期待もあった。 しかしその期待は、お父さんの次のひと言で木端微塵にくだかれた。「大事な娘を死刑囚の息子にやれるか!」 お父さんの怒号を聞いて、台所にいた彼女が驚いてすっ飛んできた。お母さんはわけがわからず呆然としていた。 彼女に、「言ったの!?」 と聞かれたので、頷いた。「どうして言ったの!?」 と問う彼女の目は、怒りに満ちていた。お父さんは言葉の限りを尽くしてぼくをののしった。 ぼくはお父さんの罵声を浴びながら、彼女の家をあとにした。お父さんも追いかけては来なかったし、彼女も追いかけては来なかった。(190〜191ページより)

本書の巻末で著者は、母親の無実をことさら声高に主張しようとは思っていないと綴っている。100パーセント無実だという証拠がないからだ。そして、もし本当に犯人だったなら、死刑に処されるのは当然だとも考えているという。

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