世界の株式市場をにぎわす「逆イールド」は景気後退の予兆──とは限らない
ニューズウィーク日本版 / 2019年9月11日 18時20分
しかし、その1か月後の8月に逆イールドが発生。2018年に新興国を中心に世界経済が減速した中でも「アメリカ1強」の状態が続いていましたが、そのアメリカ経済にも後退の兆しが出始めたことを逆イールドが示唆している......と考えられるのです。
逆イールドが株式市場に与える影響
過去の例を見れば、逆イールドが、景気後退局面の前に高い確率で起こっていることは確かです。しかしながら、逆イールド発生後すぐに株式市場が下落トレンドになっているわけではありません。
■逆イールド発生後のダウ平均の推移
直近3回の逆イールド発生から景気後退入りまでの期間におけるダウ平均の値動きを見てみましょう。実は、逆イールドが発生して景気後退局面に入るまで、いずれもダウは上昇しているのです。
(Chart by TradingView)
あくまでも過去の例ではありますが、これを見る限りでは、逆イールドが発生したからといって直ちにアメリカ市場が下落相場になると考える理由はなさそうです。
■逆イールド発生後の日経平均株価の推移
同じ期間における日経平均株価の動きも確認しておきましょう。どの期間も、バブル崩壊や金融危機など日本固有の問題があったため、アメリカ株とは対照的な動きになっています。
(Chart by TradingView)
このことからわかるのは、アメリカ市場の動向が必ずしも直接的に日本市場を動かすわけではない、ということです。今回の逆イールド発生によってアメリカが景気後退局面に入ったとしても、日本株がどうなるかは別の様々な要因にも影響を受けるはずです。
アルゴリズムが株式市場を揺らす
2019年8月の逆イールド発生時には、アメリカ市場は800ドルの大幅下落となりましたが、この主な要因はアルゴリズム取引だといわれています。アルゴリズム取引とは、コンピューターが株価やニュースなどに応じて自動的に売買注文を繰り返す取引のことです。
逆イールドに対するマーケットの関心が高いため、2年債と10年債の逆イールド発生を売りのトリガーにしていたアルゴリズムが多かったと考えられます。指標発表や売買シグナルに合わせて大きくポジションを傾ける「ディレクショナル(方向)型」と呼ばれるアルゴリズム戦略です。
個人投資家としては、「逆イールドが発生したからといってすぐにアメリカ市場が下落トレンドになるわけではないものの、アルゴリズム取引によって瞬間的に大きく下がることはある」と念頭に置いておく必要があります。また、逆イールドが発生したことで株価の変動率(ボラティリティ)が高まっている点にも警戒が必要でしょう。
しかしながら、瞬間的なニュースや変動に慌てないためには、事象の背景や過去の例を含めた根本的な理解を心がけることが重要です。
[筆者]
山下耕太郎(やました・こうたろう)
一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
※当記事は「株の窓口」の提供記事です
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山下耕太郎 ※株の窓口より転載
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