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東京には本当に「地域」がないのか?...サントリー地域文化賞選考委員座談会(中)

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月20日 10時42分

ほんの少し前にできたものにも目を向けざるを得ない状況です。そういうものを授賞対象としていいのかということもまだ検証されていません。

藤森 偏りの問題が典型的に現れているのは、例えば東京都。東京都の受賞は、2022年の「かいぼり」を入れて4つですよね(※6)。圧倒的に人口の多い東京都からほとんど出ていないのは、どこか偏っているとしか思えない。

東京に地域文化がないということは絶対にないと思う。お祭りをやれば異常なほどの人数が集まります。多くの人が、皆であるいは地域に属して何かをすることを求めているのに、それがうまく捉えきれていないのではないかと思う。

佐々木 東京は難しいですね。イベント的に集まるというと思い出すのは、渋谷のハチ公前交差点での若者たちの大騒ぎ。

御厨 祭りなんですね。

佐々木 でも、そのお祭りはメディアの存在によって成り立つものですね。地域文化の文化たるゆえんは、メディアがなくても人が集まるということ。そういう文化を見つけることがわれわれの骨太の発想だったと思うんです。

世界各国どこでも良いものは残る。人間はそういうものがなければ生きていけないというか、そういうエネルギーがあってこそ励まされる。人類はそうやって生きてきた。

藤森 そういう人類の気持ちを、東京をはじめ、都会でどうやってすくっていったらいいのか。日本人口の相当の割合が都市圏に集中しているわけでしょう。

佐々木 都市圏が地域と言えるのかどうかというのも難しいね。

田中 東京って、割に小さい単位でそういうお祭りをやっていますね。浅草でも、浅草寺の裏に猿若町という通りがあります。江戸三座があった芝居町です。

猿若町という名称は正式には残っていないのに、町内の人たちがお祭りをやる。そして吉原の催物をやると吉原町内の方たちが出てくる。すごく小さな単位だけれども、「失いたくない気持ち」がどこかにある。

江戸時代から続いている家もまだあって、新しく来た人を巻き込みながらほそぼそとやっています。探せば見つかると思いますね。

佐々木 詩の世界でそういうことが現存する例として、隅田川の桜並木があります。吉岡実さんから始まって、あそこを描いた戦後詩人たちには土手で出会った世界がずっと残り続けるんですね。

僕の好きな辻征夫さんも隅田川を描いた。小さいときに大好きだった女の子が芸者になってしまって、芸者になったその子とその土手の上で出会って交わした会話を詩にしたり。墨堤(ぼくてい)はものすごい地域文化だったんだなと。

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