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「パンダ大使」に長いお別れ...米中友好の象徴、両国関係の冷え込みで今後はどうなる?

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月14日 17時0分

国立動物園にリンリンとシンシンが到着したのは、その数週間後だ。それぞれ92年と99年に死亡するまで、同動物園で飼育された。カップルの間には赤ちゃんパンダ計5頭が誕生したが、いずれも生後数日で死亡している。

一方、2000年12月に国立動物園にやって来たメイシャンとティエンティエンは、運に恵まれていた。05年7月に誕生した最初の子、タイシャン(泰山)は10年に中国に返還。13年にバオバオ(宝宝)、15年にはベイベイ(貝貝)が生まれ、それぞれ17年と19年に中国へ送られた。

3頭がワシントンで誕生したのは、メイシャンとティエンティエンの貸与に関する国立動物園と中国野生動物保護協会の合意が定める期限が、2度延長されたおかげだ。新型コロナのパンデミック期間中の20年8月には、シャオチージーが思いがけず誕生(そのため「小さな奇跡」と命名された)。同年12月、さらに3年間の返還延長が決まった。

だが、延長措置はこれが最後だ。代わりのパンダが来年、国立動物園に送られるという知らせもまだない。

「当園は3頭の個体を日々飼育することに専念している」。国立動物園のブランディ・スミス園長は、シャオチージーの誕生日のお祝いを見守りながら、筆者にそう語った。中国へのパンダ返還は「複雑なプロセス」で、当面はそれが最優先課題だという。「その後で、未来に向けて次の段階に集中することになる」

国立動物園のパンダ飼育をめぐる不確実性は、ニクソン訪中以来、最悪ともいえる米中関係の冷え込みと同時に発生している。両国間には相互不信が根を張り、対中追加関税や輸出規制、投資削減、中国のスパイ気球によって悪化。パンダという大使は、米中対立に巻き込まれた新たな被害者になるかもしれない。

摩擦の兆候は既に表れている。テネシー州のメンフィス動物園の雄パンダ、ローロー(楽楽)が今年2月に死亡し、痩せ細った雌のヤーヤー(YY)の画像が出回ると、中国のネットユーザーや国営メディアでは動物虐待を疑う声が噴出。動物園は疑惑を否定し、20年間に及ぶ取り決めが期限を迎えた今年4月、ヤーヤーを返還した。

地政学vsパンダ保護

アメリカ側も黙ってはいない。ナンシー・メイス下院議員(共和党)は昨年、米国内で誕生したパンダはアメリカに所有権があると主張する法案を提出した(もっとも貸与契約は通常、動物園が中国側と直接交渉するため、米議会は発言権を持たない)。

地政学がパンダ保護にもたらす影響を、国立動物園のスミスは重視していない。「実際に話し合いをしているのは、動物や野生生物、保護活動に携わる人々だ」と指摘する。

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