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ブラック・ライヴズ・マター運動と映画の交差: ケネス・チェンバレン事件の衝撃的な再現

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月15日 12時43分

彼は障害のある子供や大人のためのセラピストとして働くことからインスピレーションを得てキャリアをスタートさせ、彼自身も自閉症スペクトラムという障害を抱えている。そのため、低所得者層のコミュニティに属し、双極性障害を患うケネスに深い共感を覚えた。本作では、そんな精神疾患の影響も克明に描かれている。

安否確認のためにやってくるパークス、ジャクソン、ロッシという3人の警官たちの関係も重要な要素になる。たとえば、パリのバンリュー(郊外)を舞台にしたラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』(2019)では、地方から出てきた若い警官が犯罪対策班に配属され、バンリューをよく知るふたりの警官と組むが、やがて彼らの過剰な暴力や不正を目の当たりにし、対立していく。

本作では、中学校の教師だった新米警官のロッシが同様の立場になる。私たちは、冷静で中立であろうとする彼に近い位置から、次第にエスカレートしていく異様な状況を目撃することになる。

そして、実際に作品を観ると、その映画的な効果が際立つのが一枚のドアだ。そのドアの効果は、テーマに直接的な結びつきはないが、デヴィッド・フィンチャー監督の『パニック・ルーム』(2002)を想起させる。異変を察知した母娘と豪邸に侵入した3人の男たちが、緊急避難用のセキュリティ・ルームに隔てられて対峙する。

空き家から隠し財産を持ち出す計画だった男たちは、想定外の事態に結束が乱れ、利害が複雑に絡み合い、泥沼にはまっていく。一方、内部では一型糖尿病の娘にインスリンを投与する必要に迫られる。

本作では、ケネスと警官たち双方の認識にずれが生じ、大きくなっていくことで、たった一枚のドアが強烈なサスペンスを生み出すことになる。

映画のキャラクターとその対立

物語は、ケネスが就寝中に、首にかけたペンダント式非常ボタンを無意識に外そうとし、ボタンを押してしまうところから始まる。すぐにオペレーターが通報装置でケネスに話しかけるが、彼は気づかない。それが負のスパイラルの起点になる。

そこで、会社からの通報を受け、パークス警部補と部下のジャクソンとロッシが到着する。彼らが会社から提供された情報は、対象者が精神的に不安定ということだけだった。まだ寝ていたケネスは、ロッシのノックで起こされるが、まだ誤作動には気づいていない。

そのため、ドアスコープの向こうに警官の姿を見ると、「緊急の用はない。また靴を盗みに?」というように、謎めいたことを言い出す。ケネスと彼のことを心配した家族との電話のやりとりなどから、彼が以前に別の警官からひどい嫌がらせを受けていたことが、後に明らかになる。

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