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コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務所の「失敗の本質」

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月15日 19時54分

ジャニー喜多川氏による性加害は個人犯罪にとどまるものではない。性加害はジャニーズ事務所として獲得した出演機会の提供や演出上の抜擢等を対価にした「手なづけ」(グルーミング)の下で行われていた。実行された場所は主に社長だったジャニー氏の私宅(合宿所)だが、業務(ビジネス)との関連性があったことは明らかだろう。タレント出演の対価は特に企業CMでは高額になる。ジャニー喜多川氏は2019年に死去しているとはいえ、性加害当時と同じ法人格を維持しているジャニーズ事務所にCM出演料の利益が帰属するとしたら、そのことを理解した上で企業が出演契約を継続させることが果たして妥当か、「ビジネスと人権」を巡る企業倫理が外国の機関投資家等から厳しく問われる可能性がある。その懸念から、各企業は慌ててCM契約の打ち切りに動き出している。

これに対してジャニーズ事務所所属タレントを出演させるメディア(主にテレビ局)の判断は難しい。CMにおける企業好感度や売上貢献度とは異なり「視聴率」の数値は即時かつ明快だ。「視聴率が取れる」ジャニーズタレントを切ることは現実的には容易ではない。しかし、民放では結局は番組スポンサー企業の判断が左右することになる。タレントによる移籍・独立の話も加速するであろう。他方で同じ公共放送のBBCが切り開いた今回の事件をNHKがどう正面から受け止めるかは、今年大晦日の紅白歌合戦にどれだけジャニーズタレントが出演するかで分かるかもしれない。

「創業家支配企業」でガバナンスを構築する難しさ

第三に、今回の事件は「創業家が100%株式を所有している企業でガバナンスを構築することがいかに難しいか」を示している。中古車販売業ビックモーターの保険金不正請求事件でも問題となったが、会社法が要求する内部統制構築義務は創業家完全支配型企業では実効性を確保することが難しい。取締役会は開かれず、全てが創業家の胸三寸で決まり、周囲は忖度するばかり。東証コーポレートガバナンス・コードが要請するような企業統治(ガバナンス)は、全株式を創業家が保有する非公開会社では「無いものねだり」になる。

本来であれば、そうした創業家完全支配企業であればこそ、事業の継続性と企業の持続可能性(サステナビリティ)を担保するために、外部の視線を組織内に注入できる人材を確保していくべきであろう。しかしジャニーズ事務所はそうした人材を「不要」とみなしていた。その奢りこそが、BBCという「外からの指摘」を軽視し、「ビジネスと人権」というグローバルな潮流を見誤り、そして日本国内の世論をも侮る結果をもたらしたのだ。

今回の事件では、圧倒的な影響力を持つ性加害者に対して被害者が一種の「愛着」を感じてしまう心理現象「トラウマ・ボンド」(外傷的絆)の存在も指摘されている。数百人を超えるとされる被害者の心理的ケアと補償は途方もなく大変な仕事になる。他方でジャニーズタレントに熱狂した青春時代を過ごしたり癒やされたりしたファンも多い。功罪を乗り越えジャニーズ事務所が今後も社会に貢献をしたいと望むのであれば、被害者救済に最善を尽くし、表紙を変えるだけでなく「所有と経営監督と執行」を分離させ、事業譲渡を含めて組織を抜本的に再編することによって、過去を実質的に清算することが少なくとも必要だ。

そうした上で改めて「明日の"私たち"へ。一歩ずつ。」と呼びかけた時に、ファンはどう応えるか。それにジャニーズ事務所の将来はかかっている。

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