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死者2万人に迫るリビア大洪水「決壊したダムは20年以上メンテされてなかった」

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月20日 13時10分

地球温暖化によって熱波や山火事、台風や集中豪雨が世界的に増え、それにともない家屋や都市の破壊による経済損失も拡大の一途を辿っている。

例えばアジアでは、国際赤十字・赤新月社によると2021年の1年間で5700万人が巨大台風、洪水、熱波などの被害を受けた。日本でもこの年、8月11日からの大雨だけで損害保険の支払金額が428億円以上にのぼった。

この観点からすると、デルナの大洪水はグローバルな危機の一環ともいえる。

とはいえ、そこにはリビア固有の「人災」としての顔もある。

大洪水の後、デルナのマドウルド副市長は決壊したダムが2002年からメンテナンスされていなかったことを明らかにした。つまり、老朽化したダムの放置が壊滅的な損害をもたらしたとみられるのだ。

「ダムに亀裂があるといったのに...」

もともとワディ・デルナ河は定期的に氾濫を繰り返してきた。第二次世界大戦中の1941年には、この地に駐屯していたロンメル将軍率いるドイツ・アフリカ軍団の戦車部隊が濁流に呑み込まれたという記録もある。

1960年代に治水の必要がいわれるようになり、ユーゴスラビアの支援によって上流のアル・ビラドダム(150万立方メートル)と下流のアブ・マンスールダム(2,250万立方メートル)は建設された。

その後もワディ・デルナ河はしばしば氾濫を起こしたが、二つのダムはデルナを防衛した。最後の氾濫は2011年に記録されている。

しかし、近年では老朽化が目立ち、専門家だけでなく地元住民からも不安の声があがっていた。あるデルナ市民は欧州メディアの取材に「ダムに亀裂が入っていると先週、地方政府にいったのに、誰もまじめに聞こうとしなかった」と主張している。

老朽化したダムが放置されてきたのは、この国の政治に原因がある。

リビアでは1969年にムアンマル・カダフィがクーデターで実権を握った。腐敗した王政を打倒して革命政権を樹立したカダフィは、当初こそ国民生活の向上に努めた。氾濫を繰り返していたワディ・デルナ河に二つの近代的ダムが建設されたことは、これを象徴する。

しかし、その治世の後半にリビアの社会経済は停滞の一途をたどった。政治家や公務員が賄賂を受け取ることばかり考えるなか、インフラのメンテナンスといった地道な作業は放置されたのである。

二つの政府が並び立つ国

こうした状況に拍車をかけたのが、リビアの戦乱だった。

カダフィ体制は2011年、北アフリカ一帯に広がった政変「アラブの春」のなかで崩壊した。腐敗した体制を打倒して登場したカダフィは、腐敗した独裁者として倒されたのだ。

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