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「エコテロリスト」とは誰か──過激化する環境活動家とその取り締まりの限界

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月29日 14時5分

フランスでは3月、西部サン・ソリーヌで地下水を大規模に汲み上げて作られた貯水池に反対する約5,000人のデモ隊が3,000人の警官と衝突した。フランス政府はこの衝突で30人の警官が負傷したと発表したが、デモ隊の側について詳細は明らかでない。

SLTはこのデモの主催団体の一つで、国外からも参加者を募っていた。

SLTはこれ以外にも、イタリアと結ぶ新たな高速鉄道の建設に反対する違法デモ計画や、フランスを代表する建設企業の一つラファージュのセメント工場における器物損壊などの容疑がもたれている。

ところが、こうした理由からフランス政府が出した解散命令は、8月に裁判所によって停止された。行政裁判所は政府の解散命令が結社の自由に抵触するため慎重である必要を指摘し、SLTが暴力を煽動している証拠を内務省が十分示していないと判断したのだ。

この問題に関しては、国連の専門家会議も「警察がゴム弾や催涙ガスを使用するなど過度な取り締まりを行ったことが衝突を加熱させた」と指摘し、フランス政府による判断に懸念を示している。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチも同様の指摘をしている。

過大評価も過小評価もできない

ネブラスカ・オマハ大学のエリザベス・チェレキ教授は「環境活動家に'テロリスト'のラベルを貼ることは政府にとって便利な近道だ。彼らの動機づけや懸念を考慮しないまま、犯罪者として逮捕できるからだ」と指摘する。

この視点からすれば、フランス政府は政府に批判的なグループをテロリストにすることで取り締まり、結果的にマクロン政権の温暖化対策の遅れをカモフラージュしたことになる。

裁判所命令を受けて、フランス政府による「解散命令」は宙ぶらりんのままである。

ただし、環境過激派のリスクを過大評価するべきでないとしても、過小評価するべきでもない。

先述のチェレキ教授は「環境活動家が過激化する様子は、テロが生まれる典型的なパターン」とも指摘する。

ほとんどのテロは政治に無視され、社会的に封じ込められるなか、暴力的な反動として登場しており、このままではエコテロリズムが本格化する可能性がある、というのだ。

実際、中東でイスラーム過激派によるテロが急速に増えたのは1990年代だが、これは湾岸戦争(1991年)をきっかけに市民レベルで反米世論が噴き上がるなか、中東各国のほとんどの政府が外交的判断を優先させてアメリカに協力的な態度を示し、むしろイスラームの大義を掲げる集団が弾圧されたことを背景とした。

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