「中国とは付き合いきれない」傾向が強まる時代に、「中華」をどう考えるか
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月18日 11時20分
実は台湾ではここ数年、ベトナムの歴史がブームになっています。戦後、台湾は国民党の支配の下で、中国国家として半世紀近く中国化を展開してきました。しかし今、台湾の中の「中華」という要素を削る選択を、日々苦しみながら行っています。
他方、ベトナムは中国から国家体制を学んだという揺るぎない事実のなかで、中国との距離感や「中華」という要素の相対化を長い歴史をかけて行ってきました。
その点に台湾人が関心を持っている。牧野先生のご論考からはここ数年台湾で起きている、ベトナムの歴史ブームの理由がわかりました。
岡本 ベトナムとの共通点は面白い点ですね。森先生はいかがでしょうか?
左より阿南友亮氏、野嶋剛氏、森万佑子氏、岡本隆司氏
森 朝鮮近代の外交を考える上では、朝鮮は中華世界の中にあったので、中国との関係は切り離すことができません。しかし、朝鮮は単に清朝が体現する中華にのみ従っていたのではなく、独自の中華意識も持っていました。
この「二元的中華」は、牧野先生のご論考だけでなく、石田徹先生が書かれた「征韓論からみる日本と『中華』」での日本史の観点とも重なる部分だと思います。
岡本 そういった現象が、中華の周辺地域で見られたということですね。
森 そのため、「中華」という概念と「独立」という概念が、いかに相反するかということを今回の特集で考えさせられました。
※中編:「中国化」ではなく「中国式化」...中国の「大どんでん返し」をどう捉えたらいいのか? に続く。
阿南友亮(Yusuke Anami)
東北大学大学院法学研究科教授。1972年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。東京米国ハーバード・イェンチン研究所客員研究員(2014〜2015)や東北大学公共政策大学院院長(2017〜2020)を歴任。専門は中国近代政治史。著書に『中国革命と軍隊』(慶應義塾大学出版会)、『シリーズ日本の安全保障5 チャイナ・リスク』(共著、岩波書店)、『中国はなぜ軍拡を続けるのか』(新潮社、サントリー学芸賞)など。
野嶋 剛(Tsuyoshi Nojima)
ジャーナリスト、大東文化大学社会学部教授。1968年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、台北支局長としてアジア報道に携わる。2016年に独立し、現職。専門は台湾政治、中台関係、ジャーナリズム論。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『台湾とは何か』(ちくま新書、樫山純三賞)、『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(筑摩書房)、『香港とは何か』(ちくま新書)、『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。
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