「中国化」ではなく「中国式化」...中国の「大どんでん返し」をどう捉えたらいいのか?
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月18日 11時25分
しかし、「中華民族の偉大なる復興」は台湾では全く共感されていません。それは中国が主張する「中華」というものが空っぽで、中身が全く見えてこないからです。そもそも台湾の価値を発見したのはオランダ人や日本人で、元々完全には中華世界の一部ではありませんでした。
一方、中台関係が緊張する前の馬英九政権期に台湾を訪れた中国人は「本当の中華文化はここにあった」と驚いていました。
実際に台湾の人々は非常に濃厚な中華的な感性、習慣の下に生きています。ただ、その台湾にある「中華」と中国が掲げる「中華」が全く違うものであることが、今の大きな問題なのだと思います。
岡本 倉田先生の「中国式化」というのは印象的な言葉です。拡散した中華の文明と考えると、やはり漢語、漢字は重要です。日本人も使っていますし、韓国語もベトナム語も漢語がベースの言語です。
ある「中華」を自分のものとしつつも、他方で中国とどう距離を取っていくのか。阿南先生はいかがでしょうか。
阿南 野嶋先生が「台湾で『中華』は限りなく透明になる」でご指摘されているように、本来中華の概念は、血統ではなく文化というソフトパワーです。
しかし、今の中国は文化の輝きがなく、経済や軍事というハードパワーで弱い者を従えることしかできない。これはかなり本質的な問題で、文化を自由に、好きな方向に発展させるような政治的な枠組がありません。
倉田先生のご論考に、「中体西用」という言葉が出てきます。19世紀後半に、皇帝を中心とする独裁体制を守るために、軍備とその関連産業の近代化を集中的に進めた時期がありました。その後、体制・実用ともどもマルクス主義という西洋に由来する普遍的な価値を受容して、中体西用の時代は終わったと考えられてきました。
しかし、よく見てみると今も基本的に中体西用なんですね。海外からいろいろと技術を取り入れるけれど、独裁を基調とする政治・社会体制には大きなメスを入れない。「中華」が普遍的価値と対峙し続ける独裁体制およびそれを支える閉鎖的な文化を守るための免罪符あるいは象徴的な盾となって、普遍的価値の浸透をはねのけています。
中国近現代政治研究が直面するもの
阿南 現在の中国近現代政治研究の分野では、中国で起きている「大どんでん返し」とどう向き合うかが大きな論点となっています。
長らく日本の中国政治研究では、毛沢東の個人独裁から集団指導体制を経て、険しい道を経ながらもやがて民主化に向かうという大前提がありました。これはアカデミアに限らず、70年以降の日中・日米関係もこの前提の上に築かれてきました。
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