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「中国化」ではなく「中国式化」...中国の「大どんでん返し」をどう捉えたらいいのか?

ニューズウィーク日本版 / 2023年10月18日 11時25分

ところが昨年の党大会で、習近平は権力行使にかけられていた様々な制度的な安全装置を全部取っ払ってしまいました。1つ目に集団指導体制、2つ目は定年制、そして最後に1期5年、最大2期までという任期制です。

野嶋 まさに習近平政権下における中国の変質は、ジャーナリズムにも影響を与えています。私がかつて籍を置いた朝日新聞は日中友好の神輿を担いで成長した新聞です。しかし、2010年頃には、これではいかんと路線変更しています。

しかし、世の中はそうは見てくれず、朝日新聞は今も親中という言説で叩かれ続け、現在の朝日新聞の部数減にも相当の影響を与えているはずです。

岡本 その習近平による「大どんでん返し」を、どう捉えたらいいのでしょうか。

阿南 毛沢東時代には権力行使が恣意的に乱用され、文化大革命という悲劇を生みました。その経験から「民主化はできないけれど、せめて一定程度権力行使を制度化しよう」ということで改革開放が始まりました。

ところが約40年かけて定着させてきた制度的安全装置をすべて取っ払うことが昨年宣言されました。要するに、個人独裁から集団指導体制を経て、また個人独裁に戻ってしまったということです。これは中華人民共和国の歴史を考える上で大きな転換点といえます。

岡本 私自身の研究を対比させながらお話しすると、かつて中国は国を閉ざしていたので、現代中国の研究ができませんでした。ですので、中国に関心のある知識人の多くは、代わりに歴史を学んできました。ですから、ある時期までは中国の歴史研究はとても盛んでした。

ところが改革開放以後になると、中国に関心のある人は雪崩を打って現代中国研究に行ってしまい、今度は歴史研究が空白になりました。こうした経緯もあり、日本の中国研究は歴史研究と現状研究を真っ二つに、ほとんど没交渉でやってきた背景があります。

しかし、これからの中国研究やアジア研究は、歴史を考えて現代を考える、逆に現代を考えながら歴史の意味するところを考えるという時節に来ているのではないでしょうか。

今回の特集が、そのことを再考するきっかけの1つになるのであれば、私としては大変嬉しく思います。

※下編:三国志にキングダム...中国文化への「巨大なリスペクト」がある日本だからこそ、「勘違いモード」に警告する資格がある に続く。

阿南友亮(Yusuke Anami)
東北大学大学院法学研究科教授。1972年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。東京米国ハーバード・イェンチン研究所客員研究員(2014〜2015)や東北大学公共政策大学院院長(2017〜2020)を歴任。専門は中国近代政治史。著書に『中国革命と軍隊』(慶應義塾大学出版会)、『シリーズ日本の安全保障5 チャイナ・リスク』(共著、岩波書店)、『中国はなぜ軍拡を続けるのか』(新潮社、サントリー学芸賞)など。

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