「膠着状態」に入ったウクライナ戦争の不都合な真実...西側の支援はそろそろ限界か?
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月11日 12時30分
では、何のために、昨年3月の和平交渉を打ち切って戦争を継続したのか。西側は、ゼレンスキーではなく、プーチンがその座を追われるシナリオを期待したのである。
しかし、プーチン政権が予想以上に強固な支持基盤を国内に築いていることが明らかとなり、ゼレンスキーがプーチンを追い落とすことができないことが判明した今、西側にとってアグレッシブなウクライナを維持することが、果たして得策なのかという疑問が改めて問われることになるだろう。
主なものとして、以下のような問題があると考えられる。
第1に、既に述べたように、アグレッシブなウクライナは欧州の火薬庫となり、欧州の安全保障にとって大きな問題となる。
第2に、長期にわたってウクライナ支援を続けなければならないとすれば、避難民の問題も含めて近隣諸国にとって大きな負担となる。
第3に、自由民主主義の旗印を掲げてウクライナ支援を行ってきたが、汚職がはびこるウクライナをEUの基準まで浄化するのは容易ではない。
第4に、ウクライナで混乱が拡大し、治安が悪化すれば、近隣諸国にもその影響が及ぶだろう。これは避難民の問題のみならず、ウクライナに供与された大量の武器弾薬の密輸・流出なども含まれる。
第5に、ロシアは自国の安全保障のために実力行使をためらわないことが明らかとなったため、ウクライナを西側で維持することはロシアとの緊張を高め続けることとなる。
イタリアのナポリでウクライナ戦争の停戦を訴える少女 MARCO CANTILEーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES
これらの問題点を踏まえて言えることは、ウクライナがロシアを弱体化させ、プーチンを追い落とすことができないのであれば、安全保障の観点に限れば、欧州、特に近隣の東欧諸国にとって、ウクライナを支援するデメリットは非常に大きいということだ。つまり、ウクライナを西側陣営につなぎ留めることができなくても、欧州諸国の安全保障にとってはむしろ望ましいという判断がなされることも十分あり得る。
そして、ウクライナを西側に引き寄せようとすることは欧州とロシアの安全保障にとって危険であるというこの判断こそ、プーチンが欧州に示そうとしている「事実」なのである。ここには、自由主義とか民主主義とかいったレッテルに基づく政治的価値判断はない。あるのは安全保障上の戦略的判断だけである。おそらく、現在の欧州に最も必要なのも安全保障上の戦略的判断だろう。
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