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ルーマニアの裏側......映画『ヨーロッパ新世紀』が映し出す政治文化と民族対立

ニューズウィーク日本版 / 2023年10月12日 17時30分

『エリザのために』を取り上げたときにも参照した政治学者ジョゼフ・ロスチャイルドの『現代東欧史 多様性への回帰』には、以下のように説明されている。

「それでもチャウシェスクは1980年代末まで清算を免れた。これは、社会を黙らせて個々ばらばらにし、教会の弱さと従順を利用し、労働者と農民、労働者とインテリゲンチア、ルーマニア人と少数民族(おもにハンガリー人とロマ)、軍と警察、国家機構と党機構、これら官僚と自分の一族、その他を相互に、またそれぞれの内部で反目させる、彼の戦術の巧みさのおかげだった」

村長は独裁が終わり、平和が訪れたように語るが、村人たちの発言はロマに対する排斥が繰り返されていることを物語るし、平和は危ういバランスの上に成り立っているようにも見える。そこで重要になるのが、前掲書の以下のような記述だ。

『現代東欧史 多様性への回帰』ジョゼフ・ロスチャイルド  羽場久浘子・水谷驍訳(共同通信社、1999年)

「しかし、権力の集中と特権の構造はチャウシェスクの没落ののちまでしぶとく生き延びた。強制、恐怖、疑惑、不信、離反、分断、超民族主義といった政治文化がルーマニアで克服されるまでには長い時間が必要である。結局のところこうした文化は、半世紀にもおよぶ共産主義支配によってさらに強化される前から、すでにルーマニアの伝統となっていたからである」

本作の登場人物たちのやりとりからは、そんなルーマニアの歴史とそれに対する複雑な感情を垣間見ることができる。

たとえば、フランスのNGOのメンバーに部屋を提供しているルーマニア人の村人は、フランス人にこんなことを語る。フランス人にとっては世界=西欧だろうが、ルーマニアはオスマン、ロシア、ハンガリーなど常に帝国の間で苦しみ、2千年にわたって西欧を守る壁になってきた。また、マティアスは息子に、彼らの祖先がルクセンブルクあたりから700年前にやってきたと説明する。

村に暮らすルーマニア人や少数派にはそうした背景があるが、見逃せないのは、村にやってきたふたりのスリランカ人に対する彼らの反応に違いがあることだ。

スリランカ人労働者と民族間の反応

クリスマス休暇に入って村で開かれたパーティには、スリランカ人も招待される。ドイツ人のマティアスはハンガリー人のグループと行動をともにしているが、スリランカ人の存在を苦々しく思っているのは、そのハンガリー人の仲間たちだ。仲間のひとりは、自分の姉がスリランカ人と踊っていたと知らされ、怒りが込み上げる。そして、それまで話していたルーマニア語が突然、ハンガリー語になって、「このゴキブリめ、痛い目に遭わせてやる」と息巻くのだ。

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