死に絶える中東和平...ハマスとイスラエルの衝突の先にある「最悪のシナリオ」
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月18日 11時50分
7日に公開された米誌フォーリン・アフェアーズの分析では、ネタニヤフにとれる選択として次の3つが示された。第一にパレスチナ人の抵抗勢力に立ち向かい阻止すること、第二にハマスや他の勢力のさらなる侵入を阻止すること、そして第三にガザ地区から発射されるロケット弾や砲弾を何としても止めることだ。ただし、これらの目標の実行は至難の業だとしている。
現在アメリカと一部の西側諸国はイスラエルを支持しているものの、ガザ地区での民間人に対する攻撃に抗議する声は世界中から上がっており、その「支持」は揺らぎ、一層圧力がかかるだろう。
私が日本に来てから25年が経つ。その間にイラク経済封鎖、9.11アメリカ同時多発テロ、イラク戦争とその後の内戦、イスラエルのレバノン侵攻とガザ侵攻、アラブの春、リビア内戦、シリア内戦、イエメン内戦と、中東地域をめぐる数々の出来事が起きた。それらを見つめる中で、なぜテロが起きるのか、テロを起こした人間はどんなきっかけでそうなったのかといった多くの疑問が頭をよぎった。
人間は努力や苦悩を続けても報われないと「何をやってもダメだ」と失望し、また、追い詰められた状況が続くと過激な思想に走る確率が高くなる。これは平和の力を信じて努力や苦悩をしてきた人の場合も同じだ。そのことは「武力なしに平和の実現はない」と力に訴える声に説得力を持たせることにつながるだろう。これを心理学者であるビクトール・フランクルの「苦悩と絶望に関する公式」に当てはめて、「解(かい)」を得ようとすると次のようになる。
絶望=努力や苦悩−意味
フランクルは、ナチスドイツによるアウシュビッツ強制収容所への収容という絶望的な状況の中で、わずかな希望を見出して、奇跡的に生き延びたユダヤ人の1人。彼によると絶望とは、苦悩から意味を差し引いたことをいう。つまり、絶望とは意味なき苦悩だ。
絶望的な状況に追い込まれた人たちに共通するのは、わずかでも決して希望を失わないということだ。イスラエルの軍事占領下で苦しめられているパレスチナ人の場合でいうと、これまで70年間、「パレスチナ」の国家建設を実現するために苦悩に苦悩を重ねて、未来への希望を紡ごうとしてきた。つまりパレスチナ人が捉える和平への希望と、占領による苦悩は次の公式で説明できよう。
希望=努力や苦悩+意味
パレスチナにとって和平への希望とは、占領に苦しめられている苦悩に、いつか自由になれるという意味を加えたもの。それによって苦悩は、意味のある苦悩となる。しかし、そんな明日への希望を抱ける気持ちすらドナルド・トランプ前米大統領の和平案によって打ち砕かれた。
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